その店に入ると、彼女の気配が一変した。
応対に出てきた男性は、イケメンで、気の良さそうな素敵な人である。
それだけで、彼女にとっては、心を大きく揺り動かされるに十分であった。
以後、ソファ席から厨房の方をひたすら覗き、その彼と目が合うと、きゃっと言って隠れる。
彼がいたずら心を出して、彼女に近づいてくると、きゃーきゃー笑いながら逃げ惑う。
そして、彼が厨房へ去ると、再び、そろーっと顔を出して、その行方を追う。
彼女はこの上なく幸せそうだ。
他のお客さんが少なかったことが幸いで、ひたすら、彼女は彼を追い、きゃーきゃー騒ぎ、隠れ、まるで思春期の女の子がアイドルを目にしたような態度を取り続ける。
さすがは1歳のとき、ルームサービスを持ってきてくれたイケメンなお兄さんに、1歳児とは思えぬ声音を使って、うっとりしていただけはある。
それから4年も過ぎれば、まあ、思春期ほどに成長していても仕方がないかもしれない。
しかし、小一時間、幸せなときを過ごした後、彼女に戦慄の告白がなされた。
5月いっぱいでこの店を辞めて、西中島に店を出すそうだ・・・。
せっかくご縁ができたのに・・・残念やね・・・。
このまま成長し、ほんものの思春期には、堂々と色目を使える女になって欲しいものである。
「沖縄病」という非常に罹ると厄介な、ほとんど治癒不能と言われる病、ご存知でしょうか?
「そんな奴らがいるんだ」と、私も今までは対岸の火事の如く、のんびりと鼻を鳴らして眺めておりました。
しかし、どうも、対岸だと思っていた場所が、実はとてつもなくご近所で、故に、あっという間にこちらも巻き込まれてしまったようです。
気がつけば、私も重篤な患者の一人となっていました。
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今日の大阪は一日雨が降ったり止んだりでした。
もう数日がこんな感じです。
傘を差しながら気持ち良く降る雨を見て、欝陶しいなあ、と思うか、心が洗われるな、と思うか、陰欝な気分になるか、そこに風情を感じられるか、それで自分の心が分かりますよね。
余裕のないときは、やはり、ネガティブに捉え易いもの。
余裕のあるときは、やはり、気持ちよく感じるものです。
ふと、傘を差しながら信号待ちをしていたら、そんなことを思いつきました。
そしたら、それまで早く止んで欲しいなあ、鬱陶しいなあ、と思っていた気分も、この雨も気持ちいいな、もっと楽しめたらいいな、などと都合よく切り替わりました。
何て単純。
そう思って歩き出してみると、アスファルトとコンクリートばかりの街だけれど、何となく風情に似たものを感じられるから不思議ですね。
でも、こうしとしとと降る雨は、古都の軒先で眺めるのが一番美しいような気がします。
とはいえ、やはり、五月には五月晴れを仰ぎたいものです。
明日は晴れるかなあ・・・。
ついこの間、約8年ぶりに引越しをしたんです。
1年くらい前から家を探し始め、ひょんなことから出会った物件。
なかなかいいものが見つからずに心が折れそうになったり、不動産屋さんにも
「でも、まあ、どこかは妥協しないと・・・」
と宥めすかされましたが、
「きっと、自分達にベストな物件に出会える!」
と頑なにこだわった結果、その通りになりました。
ありがたや、ありがたや。
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「ねえ、おもちぃ~」
と差し出されるコップ。
「だって、レディは自分で注いじゃいけないんだよ。はやくぅ~。」
そして、「こどものみもの スパークリング」を注ぐ父。
誰だ。そんなことを5歳児に教えた奴は。
「○○○が言ってたの。女の子はそんなことしちゃいけないんだって。」
そっか、奴なら・・・、ま、仕方ないか・・・。
「こっちおいでぇ~」
いとおしい声がリビングのソファから響いてきます。
甘えたような、でも、しっかりとした響きを持って。
しょうがないなあ・・・と笑顔で近づくと、彼女も笑って抱きついてきます。
首筋に手を回し、ぎゅっと僕に抱きついた後、
「おしっこ~」
とトイレに連れて行くよう、命じるのです。
後ろで妻のため息が聞こえます。
しかし、僕の頬に当たる彼女の肌はとてもすべすべして、呆れ顔の妻の存在は即刻目に入らなくなります。
そして、つい、その時間を慈しむように、トイレへの10歩を歩むのです。
この瞬間が永久に続けばいいのに・・・
それくらいほっぺフェチの僕には完璧なる仕様にて彼女は迫ってきます。
そして、彼女が小用を済ます間、扉の外で空を見上げるかのような素振りで、僕は待っているのです。
そういえば、かつて、こんな風にして恋人を待ったなあ・・・とは思いませんけど。
そして、再び、抱っこをせがむ5歳児を抱え、ソファへと連れて行くのです。
もちろん、ご褒美はほっぺぶちゅ。
最近は嫌がる奴を押さえ込み、わきの下の急所をこちょこちょしながら、その獲物を楽しんでいる僕がいます。
そして、満腹感と共に、中座した食事の続きを頂いたりするのです。
それにしても最近は、ソファの下に寝っ転がり、手をひらひらさせて僕を呼ぶのです。
もはや、「こっちおいでぇ」というのも面倒になったのでしょうか?
今朝は風の強さで目を覚ましました。
ガタガタガタガターーーーと窓が鳴っておりました。
でも、寒くもなく、春なんだな~と布団の中で思ってまどろんでおりました。
外は快晴!
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