「この人はそういう人なんだ」と相手を受け入れることで、人間関係はグッと楽になる。



昨日の話の続きみたいなものですが、私たちは何らかの「基準(ルール、観念、価値観、考え方、やり方)」を持って生きています。
それはある面では自分を守り、自尊心を育て、自己肯定感につながるものではあるのですが、人間関係においてはそれが時には障害となり、凶器にすらなりうることを自覚しておいた方がいいようです。

その「基準」によって私たちは「正しい/間違っている」「良い/悪い」という判断をします。
それを自分自身に適用するのはもちろん自由なのですが、人間関係においては、それを他者にまで適用しようとします。
つまり、「自分の価値観を押し付ける」というわけです。

もちろん、そこに悪意がないことも多いのですね。
自分にとっては「正しくて、良いこと」だからです。

これが厄介っちゃ、厄介なんです。

自分と他人は違う人間だと分かっているものの、自分が正しいと思っていることに反してることを他人がしていたら、イラッとなりますし、その間違いを指摘したくなります。

そこに基準が異なる相手との「争い」が生まれるわけです。

例えば「どんな状況であれ、納期はきちんと守るべきだ」という基準をあなたは持っているとします。
客先との取引を考えたら、それは正しいでしょう。

ところが、あなたの部下は「納期よりも品質にこだわるべきだ」という基準を持っています。
商品の品質がより優れている方が顧客も喜んでくれる、という考えです。
これもまたそういう見方をすれば正しいでしょう。

そこで、正しさと正しさがぶつかります。

つまり、あなたは部下に対して「それは間違っている」といい、部下はあなたに対して「あなたは間違っている」と判断するわけです。

そこではお互い「正しい」と思っていることで衝突するわけですから、お互い引きません。
とはいえ、上司と部下という関係では、力を使えば部下は上司の言うことを聞くほかありませんから、部下は泣き寝入りすることになり、自分としては不十分さを感じる商品を顧客に提供することになります。
表向きは平穏に収まったとしても、部下の内面には不満や不信感がどんどん募ります。

そこには「自分は正しくて相手が間違っている」という心理が影響しているわけですが、厄介なのは、「それがあくまで自分個人の基準である」ということをお互い忘れていることです。

両者の基準はそれぞれ正しいと言えますから、賛同者を集めることはさほど難しくありません。
マネージャー業や営業職の方ならば「納期は絶対守るべき!」という基準に同意されるでしょうし、クリエーターなどのアーティスト系の考えを持つ人ならば「納期は大事だけど、品質はもっと大事でしょ?」という基準に同意されるでしょう。

そうすると、1vs1の争いが、やがて、多数vs多数の争いに発展してしまうことも珍しくありませんね。
(賛同者が集まらなくて、多数vs1の絶望的な争いになることもあります)

そこでは、自分の基準を知る、の次は、相手の基準を知り、受け入れる。ということが理想的です。

「あいつはこういう考え方を持っているんだ」ということを正誤・善悪の判断抜きに、まずは受け入れるということです。

「自分は納期第一主義だけど、あいつは納期よりも品質を重視する奴なんだな」という風に。

もちろん、自分がその基準を正しいと思っているならば、自分の基準の正しさを改めて証明したくなるでしょう。
「そうは言ってもやっぱり納期を守れなきゃ先方の信頼も得られないし、今後の取引に影響するだろう?」などのように。

もちろん、同じ正しさの証明は部下側にも成り立つことを忘れてはいけません。

「お互いがそれを正しいと思っている」ということを受け入れるのです。

そして、相手を受け入れた上で、「俺は納期を重視する、お前は品質を重視する。どちらも正しい。じゃあ、納期を守りながら、品質も守るにはどうしたらいいのだろうか?」というコミュニケーションがそこに生まれます。

そうして、win-winの関係性の上で、この問題を解決していくのです。
理想論ですけどね。

ちなみに、こういうお話をすると

「私は相手を理解しようとしているのに、相手は自分を理解しようとしてくれない。そういう場合はどうしたらいいんだ?」

という質問が必ず出てきます。

原則的な見方をすれば、相手が自分を理解していないということは、自分がまだ相手を理解していないということです。

相手が自分の話や考えを受け入れられるほど、相手が自分に対して信頼していない、心を開いていない、理解してもらっていると感じていない、のです。

リーダーシップというのは、まずは自分が先に動くことです。
そっか、自分は相手の基準を理解し、受け入れられていないんだな、ということに気付いた方がまず行動するんですね。

相手が自分のことを理解してくれたと感じれば、必然的に相手もあなたを理解しようとするはずです。

「はず」という言葉を使ったのは、その先に「個性」というものが存在するからです。

理解の仕方、受け入れ方、また、コミュニケーションの取り方もまた、人それぞれ違うのです。

違う意見を受け入れるのに時間がかかる人もいれば、すぐにその意見を受け入れられる人もいます。
それまでの上司と部下との関係性(つまり、相手が持っている不満、不信感の量)にも左右されます。

だから、そこで再び「俺がお前を理解しようとしているんだから、お前も俺を理解すべきだろう」という基準を発動するのは要注意です。

そこでは「忍耐」が必要になりますね。
とはいえ、「忍耐」というのは「希望」がある状態です。

より良い関係を築きたい、よりいい仕事をしたい、というモチベーションが希望を作ってくれるのです。

さて、次にさらにややこしい話をしたいと思います。

この「相手を受け入れる」ということについては、心理的距離が離れている人ほど適用しやすくなります。

だから、部下よりも取引先の方が相手の話を理解しやすくなります。

逆に言えば、部下よりもっと近い関係の人ほど、相手を受け入れることが難しくなります。

そう、パートナーとか家族です。

だから、「仕事では相手の話を聴いて理解しようとできるのに、なぜか、妻や子どもの話を受け入れられない」という現象が起きてきます。

心理的に距離が近づくと、私たちは“無意識のうちに”自分と同じように相手に接するようになります。

自分が「将来のことを考えて貯金はちゃんとすべきだ」と思っていたら、家族である妻や子供に対してもそれを“押し付ける”ということをします。
そこでは様々な論理を使い、あるいは、時には感情的にその価値観の正しさを主張するのです。

そして、さらにややこしいのは、これはある程度、自己肯定感が高めな方にも起こりやすいのです。

だから、あなたの妻が「貯金が大事なのはわかるけど、今を楽しむ方がもっと大事じゃね?」という基準を持っていたら、それを全力で否定したくなるのです。

同じことを部下が言ってても「まあ、こいつはそういう考え方なんだな。それもありっちゃありだけどなー」と受け入れられるのに、妻や子供が同じことを言うと「いや違う!それは間違ってる!」と強く否定してしまうのです。

そして、「近しい人ほど相手を受け入れがたい」という心理は当然、妻や子供側にもあるわけですから、「うちの旦那は貯金、貯金言っててケチ臭くていやだわ」と“判断”したり、「うちのおとんはお金にうるさくて、お小遣いの使い方まで口出してくる」と“不満”を感じたりするんです。

また、パートナーシップというのは人間関係において最高難度を誇りますから、なかなか「相手を受け入れる」ということに対する抵抗はすさまじいものがあります。

そうした衝突を繰り返すと「亭主元気で留守がいい」と妻が言い、「家に帰りたくないんだよね~」と夫が言う関係になるのです。

「この人はこういう人なんだよなあ。自分とは違うよなあ」という意識を持ってみることをまずはお勧めしたいと思います。

私は時間にうるさいけれど、相手は時間の観念がないんだよなあ。
私は楽しいことが好きだけど、相手はコツコツやることに価値を見てるんだよなあ。
私は頭で考えて行動するタイプだけど、相手は感情で動く人なんだよなあ。
私はクールなタイプだけど、相手はホットなんだよなあ。

「良い悪い」「正しい、間違ってる」という価値基準をいったん外して、相手を一度、受け入れようとすると、実は一番自分がホッとするんです。

なぜならば、その瞬間に「争い」を手放したことになるからです。

もし、そうした相手を受け入れることに抵抗があるのならば、相手を自分に基準でまだまだ判断しようとしている証だし、競争(争い)を仕掛けようとしている証でもあるし、そして、まだまだ自己肯定感が低いってことの証でもあります。

だから、そこから「相手」ではなく「自分」を見つめていくことがまた可能になります。

やっぱり見つめるのは、変えるのは「相手」ではなくて「自分」なのです。
そこで、「自分は正しい、間違ってない!」と思い込んでいると、そこに抵抗が生まれるのは想像に難くないと思います。

自己肯定感がさらにあがっていくと、自分のことをありのままに受け入れられる割合もあがっていくので、相手のことも受け入れられるようになります。

そうすると、さらに一歩踏み込んで「そうかー。相手は自分のことをもっと尊重してほしいんだな」とか「もっと自信を持てばいいのになー。いいところいっぱいあるのになあ」とか分かってくるようになります。

つまり、相手の欲求や価値がどんどん見えてくるようになるんですね。

そしたら、相手に与えられるものも増えて行きますよね?
そこから、また相手との関係性がより良くなっていくのです。

まずは「相手を受け入れること」。
ここから始めてみると良いんじゃね?という提案でした。

ちなみに今日お話しした内容は私個人の基準についてです。
「なるほど!そうだよね!」とその基準に同意したとして、それを誰かに「あんたもこうすべきなのよ」という風にURLを送り付けたり、メルマガを転送したりするのは注意しましょう。
拡散して下さることは私にとっては嬉しいことですが、その際の言い方には配慮していただかないと、間接的に「根本vs送付先」という新たな争いを誘引してしまいますので(笑)

そんな人の心理を深く掘り下げるのはここでやってます。

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