素直さと単純さについて。



我が家では1年ほど前から、イタリアが誇る健康マットレス「マニフレックス」を愛用している。
家族3人で川の字で寝るためのマットレスを探すために東急ハンズ江坂店を訪れ、寝具担当のおっちゃんの説明に耳を傾け、それならば、と勇躍レジに走った記憶がある。若干、衝動買いではあったが、私の買い物は基本、その場の勢いによるものなので、今更そのおっちゃんのセールストークに文句はない。

それに実際寝てみると、ほど良い堅さで体のラインにフィットするため、謳い文句にあるように疲れは残りにくいし、かつ、その軽さ・薄さの割りに普通のベッドで眠ったかのような快適さで目覚めることができる。

ちなみにベッドではなく、マットレスを選択したのは、寝相が悪く、常に布団からはみ出す勢いで熟睡する幼児(5)の存在がある。


さて、もともと通気性が良いと聞き、さらに、すのこを敷いて万全の態勢でもって、この夏を迎えたのだが、梅雨明けした途端、暑さが故に目を覚ますようになった。

エアコンは寝入りばなの数時間だけと妻が厳密に管理しているのだが、そのタイマーが切れた後、寝汗をかき、暑さゆえにTシャツを脱ぎ捨て、さらに、夢遊病者のようにリビングに向かい、エアコン&扇風機を付けてソファに寝転ぶ、という生活が続いた。

この裸族性は数年前から続いているのであるが、本人はシャツを脱ぎ捨て、ソファに移動した記憶すら曖昧なときもあり、若干、妻にその神経を疑われている。因みに、以前は朝起きたら全裸だったこともあり、何の目的でパンツまで脱ぎ捨てたのか自分でも思い当たる節がなく、自己不信に陥ったこともある。

ちなみに、そのソファ。保温性に優れているのか知らんが、これもまたとても暑い。よって、寝室から避難してきたとしても、何ら効果は薄く、エアコンと扇風機をセットしてなお、暑苦しいことに変わりはない。ただ、最近、不断の努力により、和室の隅が一番涼しいことを発見した。かくなる上は、そこに寝袋を敷いて寝ることも考えざるを得なくなっていた。

「やはり、カラッとした地中海性気候の下で育まれたマットでは、高温多湿な日本の夏には対応できないのかもしれない・・・」

私はもちろんだが、まだ裸族に染まっていない妻もやはり寝苦しさは感じているようで、自然とお互いそのような認識で一致するようになった。
すなわち、

「やっぱり、このマット、暑いよね」

が、寝苦しい夜を越えた夫婦の会話であった。

しかし、朝6,7時に暑さが故に目覚め、ソファに移動して1,2時間眠ったとしても、やはり疲れは抜けない。
めざましテレビやみのさんのテンションに感心する機会は増えても、一向に目は覚めないのである。

そんな中、「さらにゴザとか敷いたらどうかな?」「冷却ジェルの入ったマットを追加購入しようか?」そんな会話を交わしつつ、件の東急ハンズへと車を走らせた。

別に文句を言おうとか、そういうつもりは無かった。

たまたま、妻が探していた「そばがら枕」を見つけ、その説明をしてもらおうと店員さんを探していたとき、例のおっちゃんが現れたのである。

別に改めて苦情を言うつもりは毛頭無かった。

その枕のすぐ近くに展示されているマニフレックスがあり、事前に打合せをしたわけでもないのに、娘が勝手にそのマットで遊び始めたが故に、おっちゃんと会話をする機会が巡ってきた。

「これ、使ってるんですけど、暑いんですよね。熱、こもりますよね?」

とつい、熱を込めて語りだすと、そばがら枕を抱えた妻も参戦、

「すのこも敷いてるんですけど、すごく暑くて眠れないんですよね」

と我が家の窮状をかくかくしかじかと訴えた。

すると、そのおっちゃん、え?という表情をした後、

「いや、この商品で、そういったお話は初めて伺いました。これは○○という素材で出来ていて非常に通気性が良く、掃除機で表面を吸うと、裏側のものが吸い付くくらい中に空気をよく通すんです。その上、すのこまで敷いていただいていたら、熱がこもる、ということはないと思うんですが・・・。」

と弁解するのである。何?客を信じひんのんか?と一瞬、血が上りそうになるが、畳み込むように、パンフレットの断面図などを指し示しながら、「部屋の空気さえ、動いていれば涼しいはずです。私も愛用していますが、熱がこもるというようなことは・・・。ちょっと本部の方にまた問い合わせてみますが、今までも、そのようなことは・・・」と、また熱心に説明してくれるのである。

文句はあっても、熱意に弱い根本家である。
「そうなのか・・・」と素直に引き下がった。

さて、その夜である。
マットレスに横たわりながら、「これが通気性がいいって状態なのか。へぇー」と妻と会話を交わしていると、心なしか、涼しく感じられてきた。

私は睡眠前にちょこっと軽い本を読んで一日をリセットする習慣があるのだが、その日は疲れてたのか、酔っ払っていたのか、すぐに眠りに落ちていた。

やがて私は、けたたましい目覚ましの音にたたき起こされた。
外は燦々と夏の太陽が輝き、既に外は30度を越えていそうな朝であった。
ふだんならばソファで眠りながら“とくダネ!”を見ている時間に、そのマットレスの上で目覚めたのであった。しかも、熟睡した感じですがすがしい。

横で目を覚ました妻に「眠れた?」って聞いてみた。(その時、幼児(5)は足元に転がっていたので。)
同じく「うん。不思議。なんだか久々に熟睡したって感じ」と答えた。

思い込みって恐ろしいものである。
そして、なんと単純な(素直な?)夫婦であろうか、と呆れるほどに感心したのであった。

なお、このできごとから、既に数日は経過しているのであるが、その後、なぜか、とても快適な睡眠が続いている。
何というか、やはり、環境を帰るよりも、自分(の感じ方)を変える方が、人生は快適になる、ということなのであろうか。


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