○セックス依存症・セックスレス症候群



2004年3月発行の小牧者出版「幸いな人」に寄せた記事です。
セックス依存症やセックスレスに関するテーマで執筆させていただきました。



「セックス依存症・セックスレス症候群」

カウンセリングの中でもっとも多いご相談が男女関係や対人関係に関するものです。
結婚、離婚、失恋のご相談を始め、二人の関係をより良くするためにカウンセリングを使われる方も増えてきました。
その中で性に関するご相談もとても多いのですが、今回はご依頼を頂きまして、その中でもセックスに依存してしまう心理とセックスレスについてお話させていただこうと思います。
ただ、最初にお断りさせていただきたいのですが、カウンセリングは医療行為ではありませんので、診断行為を行うことはいたしません。お客さま自身が依存症なり、セックスレスなりを自覚されている状態を対象としています。

●セックス依存
私たちは少なからず何かに依存しないと生きていけないものです。
その中で、特定のものに強く依存してしまうことを“依存症”なんて風に呼ぶんですね。
有名なものではアルコール依存症といわれるものや仕事人間(ワーカホリック)、パチンコや競馬などのギャンブル依存、日本ではあまりお見かけしませんが薬物依存などがありますね。
アルコールも仕事もギャンブルも刺激的なものですが、人の心はある一定の刺激に慣れてくるとより強い刺激を求めるようになりますから、最初は遊びのつもりがやがてはやめられないようになり・・・といった状態を作り出していきます。
そして、それが無くてはやっていけない、生活が普通に送ることができないくらいの影響を及ぼしていくものです。
そんな風にアルコールにしか頼れない、仕事でしか何かが埋まらない、といった、自立的な心が生み出すのが、この依存症と呼ばれるものなんですね。
そんな中で、セックスに依存してしまう女性たちにお会いする機会が増えてきました。
寂しさを紛らわすため、ちょっとだけでもいいから人肌を求めて男性と体の関係を持ってしまう女性たちです。ナンパ目的で街に出かけたり、セックスフレンドを作って体だけの関係を求めたり、職場などで知り合った人と簡単に肉体関係を持ってしまったり。
そんな女性たちにお話を伺っていくと「セックスが好きだから」という一面もある一方で、セックスがしたいからセックスをする、という状態ではないことがわかってきます。
心理的に彼女たちを見ていくと、それはアルコールや仕事、ギャンブルに依存してしまう人たちと同じ状態が見えてきます。
それは一言で言ってしまえば「心の中にぽっかり空いた穴を埋めるため」なんですね。
その穴を埋めるために、アルコールや仕事、セックスを使っているわけです。
その心の穴は寂しさや孤独感、不安といった感情を作り出します。
これらの感情が彼女たちをセックスに走らせてしまうわけなんです。
彼女たちをカウンセリングしていくときには、その心の穴がどうして出来てしまったのかを考えていきます。
セックスは心理的に見れば“親密感”や“つながり”のシンボルです。
ですから、どこで彼女たちの心で親密感が感じられなくて、つながりが失われてしまったのかを一緒に見ていくんですね。それは幼い頃の家庭環境や学校での生活の中で起きてくることが多いですね。
たとえば、ある女性は怖いお父さんにとても厳格に育てられたので、子どもならば誰でも持つ甘えたい欲求や頼りたい気持ちをずっと心の中に抑圧してきてしまいました。
スキンシップも記憶になく、子供時代を回想すれば、冷たい家の中の空気を感じます。
そんな彼女が彼氏を通じてセックスを知り、その肌の触れ合う暖かさや安心感の虜になってしまったんですね。そして、彼女は甘えたくなるたびに、寂しさを感じるたびにセックスを求めるようになっていきました。そして、彼女にとってセックスは、小さな女の子が甘えたくて「パパ、抱っこ!」ってお父さんに抱きつく行為の代わりになっていたんです。
ですから、彼女にとってはその心の中の寂しくて震えている小さな女の子を癒してあげる必要がありました。こうした部分はセラピー(心理療法)を使うことによって、少しずつ解消していくことができます。
この彼女も何度かカウンセリングに通われるうちに、親密感、安心感をセックス以外の場面でも感じられるようになっていきました。

●セックスレス
セックスレスのご相談は本当に多いですね。
付き合っている間からすでにそうだったケースや、結婚や出産が境になったケース、浮気や仕事上のトラブル、家庭の事情など何かの事件がおきてから、と時期はさまざまですが、気がつけばセックスが少なくなっていくケースがとても多いようです。
どのくらいがセックスレスなのか?という基準はなく、自分が「最近セックスがないなあ・・・」と感じたら、その時だと思っていただいてもいいかもしれません。

その原因となるものはいろんなケースがありますが、主なものをご紹介しましょう。
ひとつはお互いの距離が近すぎる場合が考えられます。
夫婦になり、それまで他人だったものが家族になるので、心理的な距離はすごく近くなります。
そうすると、夫婦のセックスなのにまるで近親相姦のような感覚になってセックスする気が起こらなくなる場合です。
このケースでは、お互いの距離感を少しずつ空けていくようなアプローチを取ることが多いです。
仕事をしたり、趣味を見つけたりしてもらう場合もありますし、セラピーを通じて自分を見つめ直していきます。

また、感情的な壁がお互いの間に聳え立ってしまっている場合も多いですね。
不満や怒りを感じる相手と積極的にセックスしようという気にはなりませんものね。
でも、夫婦間で一番大きな壁になるのは「恥ずかしさ」という感情だったりするんです。
これは上の心理的な距離と通じるところでもありますけれど、子供時代に食卓でセックスの話題が出ることが少ないように、家族になってしまっている分だけ、セックスがタブーになってしまうわけです。
この場合にはセラピーや夫婦のコミュニケーションを取っていくことでその感情を手放し、乗り越えていくことができます。
特にこうした感情を乗り越えると、まるで付き合い始めの頃のような新鮮なセックスが楽しめるから、私たちの心が持つ力は不思議なものです。

ただ、セックスレスをもう少し深いレベルで見ていくと、自分が大人になることを受け入れられない心理が見えてくることがあります。セックスというのは大人の男女がするものですから、子供のままでいたい気持ちが強いとセックスができなくなってしまうんですね。
付き合っていくとお互い、あるいはどちらかが子ども帰りしてしまっている夫婦は意外に多いものです。
夫婦なのにまるで父-娘、母-息子のような関係になってしまうんですね。
また、相手を男性として、女性として見られなくなったりするのも同じ傾向です。
どちら側の立場であったとしても、自分が大人であることを許し、より成熟した自分になることを目指していく必要があります。


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