ご縁でであったガチ中のガチの治療院にてハリネズミになってみた。



珍しくコラムのような日記のような記事を書こうと思い立った。それはひとえに面白い写真を入手したからに他ならない。

頭に鍼がいっぱい刺さっており、そこに電極が付けられている。まるで改造人間になろうとしているかのようなシーンであるが、これは真っ当な治療なのである。
ただ、「治療」という言葉を使うといらん心配をしてくださる方がいらっしゃると思うのではっきり明言しておきたいのだが、別に私が病に侵されているというわけではない。ご安心いただきたい。

私としては難聴と耳鳴りを持つ妻の付き添いのつもりであったし、ついでに自分の体もメンテナンスしてもらおうかな~という軽い気持ちで予約を入れたのだが、訪れた先は予想をはるかに上回るガチ中のガチな治療院であった。因みに内装も訪れている患者のカオスさも窓の外の大通りを走る車両の様子も日本というよりはアジアな雰囲気である。
一応、血圧が高めだとか、長年の酷使により肝機能も落ちているとか、腸が冷えていて腰が少し悪いとか、出張族ゆえに生活が不規則で旅先では睡眠が浅い等々、その辺の事情をつらつらと述べたところ、気が付けばベッドの上でハリネズミのようになっていたのである。因みに2週間後には先生の実家で作られる漢方が送られてきて、それを煎じて飲むことになってしまった。

今まで10年くらいメンテナンスのために鍼灸を受けてきたのだが、ガチ中のガチな治療院では鍼の扱いが全く異なる。
私の知っている鍼灸ではせいぜい治療時間は1時間程度であり、短いところは20分くらいである。脈を取ってもらい、鍼によって経絡のバランスを取るのである。
しかし、ここではとりあえず症状が治まるまでは月に30時間は鍼をぶっ刺しておくのが有効らしく、この日以来、私は1日3~4時間この姿勢でベッドの上に寝転んでいるのである。月30時間ということは1日3時間として10日は通わなければならない算段である。

気が遠くなりそうになりながら先生の話を聞いていると、患者さんのほとんどは府外の方で、中でもふつうに通えない遠方の方はここの近くに宿をとって4、5日滞在し、その間にまとめて30時間治療を受けるらしい。
その辺の話を聞いているとそれは治療ではなく、修行ではないか?と思われるほどである。

で、ひょんなことからガチな修行、ではなく、治療を開始することになったのであるが、私は両足、両手、お腹、そして、この頭に鍼を刺され、頭には電気が流されている。脳の血流を良くするとかなんやらかんやら説明してくださったのであるが、これで体がますます元気になるなら言うことはない。鍼が刺さっている箇所が前頭部であるから、最近とみに後退が激しい髪の毛がもしかしたら生えてくるんじゃねぇか?という淡い期待も正直ある。

3,4時間ベッドに寝たまま治療を受けるのだが(治療時間は患者の希望によって長くも短くもできる)、その間、じっとできない多動症の私はまさに苦痛というほかない。幸い、部屋にはwi-fiが飛んでおり、スマホを自由に見ることは許されているのでYoutubeをガン見することになる。とはいえ、両手にも鍼が刺さっており、動かし方を間違えたり、変に力を入れると「うぐぅ」という状態になる。痛いのだ。

これを月30時間もやれば悟りが開けるんじゃないかという気がしてきた。実はここだけの話、このところYoutubeで比叡山の千日回峰行や12年籠山行の動画を観まくっていて影響を受けまくっている。そう思えば、この修行、いや治療も耐えられそうな気がする。要するに精神はだいぶ鍛えられそうなのだ。

トイレは、スタッフを呼んで電極を外してもらい、鍼が刺さったままの状態でその治療院が入るマンションの共同トイレまで歩いていかねばならない。足にも鍼が刺さっているのである、痛い。しかし、トイレに向かう道が比叡山の山中だと思えばそれもまた苦にならない。回峰行者になった気分でトイレまでの数十メートルを往復するのである。
さらに、頭にはコードがぐるぐる巻きにされている姿はなかなか怪しい。住民と出会ったりしたら怪しい宗教団体のように思われるんじゃ?と不安になったりもする。しかし、むしろ住民の方がこの景色に慣れているようで、すれ違っても別に驚かれたりはしなかった。確かにマンションも相当古いが、この治療院もけっこうな老舗なのである。

鍼を受けた後も今までとはちょっと違う。
今まではどっと疲れが出たり、緩んだり、身体が軽くなったりといった感覚があったのだが、今回の治療はそこまでインパクトのある変化はない。
しかし、その一方で、睡眠時間は短いけれど寝ざめは良くすっきりしている、とか、なんか体が強くなったような気がする、とか、だるさはあるけどしゃんと動けるとか、そんな変化がある。因みに妻は耳鳴りがだんだん静かになり、聴こえにくかった耳が少し聴こえるようになってきたという。

とりあえず、合計して11時間ほど治療を受けたのだけど、これからどんな変化があるのかちょっと楽しみになってきた。
とはいえ、スケジュールの空いている日に治療を詰め込んでいるので短期集中となっており、さすがに体の中から疲れがにじみ出てきているような気もする。
なので、今日もさっさとこの記事を書いたら床に就きたいのであるが、これでは今月末締め切りの原稿がちゃんと書きあげられるかどうか心もとないのである。

そう、すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思うが、今日の話はすべて書籍の編集者に向けて書かれている。
これこれこういう事情だから締め切りに間に合わなくても許してくれ、というわけなのである。
この言い訳が各社の編集者にきちんと届き、受け入れられることを切に願わん。


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