お互いの愛し方がすれ違う(2)



ラブ・カウンセリング

前回、とても好評(反響?)を頂いたテーマですが、今回は少し分かり難いケースをご紹介しましょう。

こうした愛し方がすれ違う場合、“投影”という心理学の概念がとても役に立ちます。

(詳しくはカウンセリングサービスの心理学講座「14.投影とその活用方法~人は心の鏡~」 を参照下さい。)

すなわち、私達は無意識的に「自分がこうだから、相手もこうだろう」という思い込みをしてしまうんです。
今日はそんなお話です。

最初にネタばらしをしてしまいますが、

「私は自分が病気のとき、大好きな人にはそばにいて欲しい。でも、彼はそうしてくれなかった。だとしたら、彼はきっと私のことは好きじゃないし、大事でもないんだわ」

・・・というお話です。


一緒に暮らし始めて1年ちょっと過ぎた冬のある日。彼女は朝起きるととても体がだるく、体の節々が痛みます。「風邪かな?」と思って熱を測ると38度ちょっと。最近、無理をしすぎたかな、と思い、会社に電話して休むことを伝えます。
一日寝てれば治るだろう、と思い、病院には行かず市販の薬を飲んで横になることにしました。
彼は最近忙しいようで、「そうか。会社休むのか」とだけ言って、そのまま仕事に行ってしまいました。本当はそこで「ゆっくり休めよ」の一言くらい欲しかったのですが。

さて、寝てれば治るはずがどんどん体が辛くなっていきます。熱も39度を越え、これは風邪ではなくてインフルエンザだと思いますが、病院まで行く気力も湧かず、ただ寝ていました。
食欲も無く、でも、何か食べなければと思い、彼に熱がとても高く動けないこと、そして、帰りにフルーツとヨーグルトか何かを買ってきて欲しいことを伝えたのです。
もちろん、彼がそんな彼女を心配して早く帰ってきてくれることを少し期待しました。
でも、彼はいつものように夜10時過ぎに帰ってきて、「はい、これ」とコンビニの袋を差し出すと、「俺、飯、まだなんだ。食ってくる」とさっさと出て行ってしまいました。

その態度に愕然とする彼女。
「大丈夫か?」の一言もなければ、コンビニのバナナとヨーグルトを言われたとおりに買って来ただけで、何だかすごく寂しい気持ちになってしまったのです。

そして、1時間後帰ってきた彼は、さっさとシャワーを浴び、テレビを見始めました。
彼女はその彼の冷たい態度にとても心が締め付けられるようでした。

翌日、とてもしんどくて病院にすら行けない状況だったので、もう1日仕事を休んだのですが、彼の態度は相変わらずで、朝もあっさり「それじゃ、行ってくる」とだけ言って出て行ってしまうし、帰りもいつも通り。
しかも、何も言わなかった(言えなかった)ので、彼は昨日と同じ、バナナとヨーグルトを買ってきただけでした。
しかも、「はい。」と渡してくれた顔は少し赤らんでいて、お酒の臭いが・・・。

ええーっ、彼女が熱出して寝込んでるのに、何、その態度・・・。

弱っていなければ爆発していたところ、ただただ悲しくてその夜も過ぎていきました。

普段から確かに無愛想なところのある彼ですが、優しい人だと思ってました。
元気じゃない私はダメなのかなあ・・・
こんなに冷たいなら、友だちに来てもらおうかなあ・・・
もう無理だから、治ったら家を出て行こう・・・

さて、確かに彼の態度は冷たいですよね。
「大丈夫?具合はどう?」くらいは言ってくれても良さそうなのに、なぜ、彼はそういうことを言わない(言えない)のでしょうね・・。

「ひどい!むかつく!」と思う前に、「何でだろう?」と思ってしまうのが我々カウンセラーの習性でもあります。

そういう気遣いができない人なのか、できるけどしなかったのか、そういう発想すらなかったのか・・・。

誰かから何かしてもらえないときの理由って大きく二つあるといいます。
「それを持っていない」あるいは「持っているけどあげたくない」。

前者は知識・経験・能力がないということ。
後者は怒り・怖れなどのネガティブな感情があること。

その原因が分かったからと言って怒りが収まるわけではないかもしれませんが、お互いの関係性が深くなればなるほど、“すぐには理解できないこと”が増えます。

そこで相手を否定してしまうと二人の間に壁が建設されるわけで、だから、そこは一歩踏み込んで、なぜなんだろう?と考えてみることも有益な場合が多いのです。

怒り心頭の彼女。インフルエンザ(?)が治ってからはもちろん、彼とは険悪なムード。
カウンセリングで彼女の話を聞きながら、「そりゃあ、災難だったね~」などと共感しつつ、こんな話をしたんです。

「彼って病気するのかな?病気するとしたら、そのとき彼はどんな風なのかな?」

「まだ付き合って1年ちょっとだから、まだ分からないんですけど・・・。」

「彼のお母さんってどんなタイプ。結構、彼に構ってくるような感じなの?」

「え?お母さん!?会ったことないですけど、でも、あんまり好きじゃないみたいなこと言ってました。すごくしつこい、ウザイって感じでした。」

「じゃあ、彼にこう聞いて欲しいんですよね。『もし、あなたが病気になったら、あまり私は関わらないほうがいいの?』って。」

後日、彼女は彼にそのまま話をしたそうです。
そうしたら、案の定、彼はこんな話をしてくれたそうです。

「病気のときは放っておいて欲しいんだよね。近くでギャーギャー騒がれると、余計に頭が痛くなるから。2,3日食べなくても死ぬわけじゃないんだから、そっとして欲しいわけ。うちの母親ってちょっとでも僕が熱を出すと大騒ぎで、四六時中傍を離れなくて、大丈夫?具合どう?ってずっと聞いてくるんだよね。それがほんとウザくて」

さて、皆さん。
彼女が寝込んだとき、できるだけ傍にいないようにそっとしてあげてたわけですが、それが彼なりの愛だとしたら、それを素直に受け取れるでしょうか?

「でもね、根本さん。分かるんですけど、でも、やっぱり私は辛かったんですよ。そういう時は傍にいて欲しいんですよ。どうしたら彼に分かってもらえるんでしょう?」

「そりゃあ、もう、いわゆる“教育”ですよね(笑)何度も伝えていくんです。傍にいてくれたら嬉しい、おかゆでも料理を作ってくれたら嬉しい、『大丈夫?』て声をかけてくれると安心して元気になれる、などなど。何度もね。とても面倒だし、病気のときにやることじゃないですけどね。とりあえず、近々仮病でも使って寝込んで練習してみる、という手もあるよね。」

何だかなあ・・・という表情でカウンセリングルームを後にした彼女。
その気持ち、分からなくもないですが、もし、それが原因で別れるのは惜しい、と思われるのならば、きっとまだ彼のこと好きな証拠。
踏ん張り時かもしれませんね。
彼だって、彼なりに彼女を愛してくれているわけですから。(←ここがすごく重要です)

私達はどうしても「私に合う方法で愛してもらいたい」と思います。分かり易いし、一番嬉しいから。
でも、そのためには、「あなたが喜ぶ愛し方を相手に教える」ということも大切なことなんです。
「~してくれたら嬉しいな」とか。もちろん、これはお互いにロマンスがある時期にやっておきたいこと。
険悪になってからではちょっと遅い(もしくは時間がかかる)ものですから。
そして、そこでは“常識”はまるで意味の無いものになります。二人の世界ですからね。

さて、皆さん、どう感じられましたでしょうか。

こうした“あり得ない”レベルでの“誤解”も無きにしも非ずなのです。
私達はつい“自分の基準”で相手の行動を判断してしまいがちですが、そこで、「でも、ちょっと待てよ・・・」と思ってみると、それが誤解やすれ違いであることに気付いたりできるかもしれません。

参考になりましたら幸いです。


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