病気にならなきゃできないこと。



病気って悪いことのように感じられますが、本当は恩恵のいっぱい詰まった宝箱なのかもしれません。
そうまでしなきゃ、愛を受け取れなかったり、人生を見つめ直せなかったりするのですから。

あるクライアント、Mさんのお話です。

彼は公私ともども多忙がたたって数か月前から病気になり、なんとか騙し騙し仕事を続けていたものの、やはりそれも難しくなり、前月から会社を休むことにしたのです。
入院と言う選択肢もありましたが、とりあえずは自宅療養を選択していました。
専業主婦の妻もいて、子どももあり、また家のローンもだいぶ残っていて、このまま自分が復帰できなかったらどうしよう、という不安や怖れに苛まれていたんですね。

お話を伺っていると誠実でまじめな人柄が伝わってきます。
責任感も強く、上司からも部下からも信頼されているであろうことを容易に想像が付きました。
それゆえ、あれこれと背負い込んでしまったのでしょう。
今回の病気の他にも精神的にもだいぶ追いつめられているようにお見受けしました。


そういうお話をお伺いしながら、私はこんな風な目で見ています。
「なぜ、この病気にならなければならなかったのだろう?」
「この病気になることで彼が訴えたいことは何なのだろう?」

治療によって症状が改善したとしても、その本来の目的を果たしてなければきっと再発するか、より大きなメッセージを受け取ることになってしまうと思うのですね。

彼もまた、なぜ病気療養中にカウンセラーの元を尋ねたかと言えば、その一本気で、頑張り過ぎてしまう性格を何とかできないだろうか、という目的があったのでした。

彼の生い立ちの話をお伺いしていくことにしました。
幼少の頃、彼は厳しい親の元で、長男として期待されて育ったそうです。
父親は厳格な人で、仕事中心で、いかにも九州男児という頑固な亭主関白な人間。
母親は根はやさしい人でしたが、姑との関係に疲れ果て、また、弟が病気がちということでそちらにかかりっきりになっていたそうです。

彼は「自分がしっかりしなければ」と幼少期から頑張ってきたのです。
同時に、弱くなってはいけない、迷惑をかけてはいけない、という思いがありました。

「今回のこと、田舎のご両親には伝えましたか?」とお聞きすると、彼はとんでもないという風に首を振って、「そんなことは言えません。心配するに決まっていますし、これからどうするんだ、と逆に怒られると思います。」と答えられました。

「では、奥様には支えてもらっていますか?」と続いてお聞きすると「はい。よくしてもらっています。きっと心配だろうと思いますが、なるべく明るく振舞ってくれています。」とのこと。

実はその時、奥様も同席されていたので、彼の性格や療養中の生活についてもお聞きしました。

彼が病気になった目的について思い当たるところが出来たからです。

「Mさんは・・・、そう、病気にならなきゃいけなかったんですよ。そうするしかなかった、と言うか。病気になるほかにできないことがあったんですよ。何か分かりますか?」

「い、いえ、分かりません。そんなものがあるのでしょうか。」

「ええ、もし、あるとしたら?と仮定してるだけなんですけどね。もし、この病気になることが必要で、それも完璧なタイミングで、完璧な症状で現れるとしたらなぜだろう?って考えてみるんです。病気って悪いもののように思うでしょう?でも、そうじゃなくって、見方を変えれば恩恵にもなりうるんですよね。Mさんも、このまま突っ走ってたら、もっとヤバいことになってたって分かりますよね?」

「え、ええ、皆さんにはそう言われますが、私はイマイチ、ぴんとは来てないんです。もっと頑張らなければいけないときに、とむしろ自分が情けなくなるくらいで」

「そうなんですよ。もし、それに気付いていたとしたら病気にならなくても良かったのかもしれないですね。体からの緊急メッセージなんですよね。『このままだったやヤバいよ、この辺で一旦休まないと持たないよ。でも、Mさん、なかなか気付いてくれないからな。ここは一発、ちょっと適当な病気になってもらって休んでもらおう』という風な」

「そうなんですか?そんなことがあるんですか?」

「ええ、この病気が見つかるまでも、色々な予兆はあったと思うんですよ。体の具合が悪いとかだけでなく、凡ミスが連発するとか、事故に遭いそうになるとか」

「はい、ありました、ありました。疲れてるんだろうな、と思いながら、自分でも信じらないミスをしてたり、それこそ、営業車をぶつけそうになったこともありました。」

「そう、そういうのが予兆なんです。無意識からのメッセージというか。『これくらいで気付いてくれ~。Mさん、あんた、いっぱいいっぱいなんやで~』という声なんです。でも、それに気付いてくれないとだんだんその声は大きくなって行くんです。気付いてくれるまで」

「それで今回、胃に穴が空いたということですか?」

「そう考えて見てはいかがでしょうか?つまり、そうでもならない限り、Mさんは止まらない人でしょう?」

「うーん。確かに。少々の風邪では仕事休まないですし」

「それと休むことの他にもっと大事なことがあるんですよ。病気になる目的の一つですが。」

「何でしょうか?」

「こうにでもならなければ、Mさん、誰かに甘えられないでしょう?奥さんや周りの人に、あれこれ助けてもらわないでしょう?」

「えっ?ええ、まあ。」

「子どもの頃からしっかりしなきゃで頑張って来て、そして、1人であれこれ成し遂げてきて、仕事でも家庭でも大黒柱で突っ走って来て。でも、Mさんの心の中には、そうしなければ自分は愛されない、必要とされない、って思いが隠れているんじゃないでしょうか。頑張ることが自分、だから、頑張れない自分は必要ない存在。だから、病気になるほかに誰かに頼れないし、甘えられないんです。逆に言えば、病気になることで誰かに甘える大義名分ができたと言ってもいいんです。」

「確かにそうです」

「Mさんはきっとこういう思いを持ってます。『しっかりしてない自分ではダメなの?頑張っていない自分では愛されないの?何もできない僕じゃ、ここに居ちゃいけないの?』って。だから、今は奥さんに甘えてください。そして、今のこのセリフを良かった奥さんに言ってみてもらいたいんです・・・けど。」

「えっ!!今ですか?ここでですか?いや、ちょっとそれは無理です」

「(笑)まあ、そうですよね~。でも、奥さん、そう言われたらどう答えます?『いやあ、働いてくれへん夫は必要ないですわ~。願い下げですわ~』って思います?」

(奥さん)「そんなこと言わないですよ(笑)私も、ずっと休んだら?って言って来たんですがなかなか聞いてくれなくて。むしろ、治る病気だって先生もおっしゃってくださいますし、ちょうどいい休暇だと思ってるんですよ」

「ですよね。でも、本当のことを言えば、どれくらいあなたが愛されているのか、必要とされているのか、病気にでもならなかったら気付かなかったと思うのです。奥さんに優しくしてもらって嬉しいし、必要とされてる、ここが居場所って感じられたでしょう?そんなに頑張らなくても、しっかりしなくても、ちゃんと愛されてるんだって感じるためには、こうにでもならなきゃいけなかったんです。そういう意味では、もう一つ、人生を変えるためにして頂きたいことがあるんですけど・・・。嫌な予感します?(笑)」

「ええ、ビシビシ嫌な予感します(笑)」

「ええ、たぶん当たってます(笑)そう、田舎のご両親にご報告してください。でも、その時、こう言って下さい。『オヤジ、お袋、すまん。俺、頑張れなかった。潰れちゃった』って。敢えて謝ってください。その方が言いやすいはずだし、本音だと思います。その時、ご両親がどんな風に言ってくれるのか。その言葉をしっかり胸に抱いて帰って来てください。」

「わ、わかりました(涙)」

「その上で、実はもう一つ。病気になった目的があるんです。今、人生について考え直しませんか?俺の人生、これでいいのかな?って。これから先のことも含めて、人生設計をし直すいいタイミングだと思うのです。もちろん、子どもの教育、家のローン、ありますよ。でも、その上で自分が本当にしたいこと、生きたい人生を見つめ直すこともできますよね。こんな病気になるんだったら、これからは本気で自分のしたいことやってやろうって思うこともできます。そのいいきっかけになると思うのです。」

「確かにそうですよね。今、これからのこと、本当に毎日考えていますから」

「そう思えば、病気になって良かったと思いませんか?」

「そうですね。確かにこうにでもならなきゃ、考えないことばかりです。それに私は頑固なんで、病気にでもならなきゃ気付かなかったかもしれませんね。」

「だから、きっとこの病気も恩恵なのです。その目的をきちんと受け取れたときが本当に病気が治るときですし、その時には病気になったことに感謝すらできると思います。」

そのMさんは実際、奥さんと一緒に実家に行き、自分の不甲斐なさを両親に謝罪しました。
しかし、ご両親はそんな彼を一喝するどころか逆に詫びてくれたそうです。

「弟のことで手いっぱいで全然お兄ちゃんに目を向けられなかったこと。しっかしてくれていたからこの子は大丈夫なんだと思ってたけど、やっぱりそうじゃなかったんだね。」

そんな話をして下さったそうです。

そして、今はゆっくり休んだらいい、何だったら田舎に帰って来てしばらく静養したらどうだ?という話になり、奥さんの勧めもあって一人で実家に滞在していたそうです。

「親に甘えるって難しいですね。でも、色々と面倒を見てくれる両親を見て、自分はやっぱりこの家の子どもで良かったんだな、と思えて、すごく安心したんです。」

後に彼はそう語ってくれました。
そして、今では仕事に元気に復帰されて、より責任の重い業務を担当されています。

彼にとっては、休むこと、誰かの愛を受け取ること、甘えること、人生を見つめ直すこと。どれも病気にならなきゃできないこと、だったのだと思います。

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