傭兵たちの朝~軽井沢リトリート・レポ その1~



傭兵の朝は早い。
日付が変わる時刻が近づいてくると誰彼問わず野営の準備を始める。
そこに言葉は一切ない。
ただ黙々と布団を並べ、シーツを敷き、毛布を重ねる。

明日のことを憂いても仕方がない一匹狼の傭兵たちは今日一日を生き永らえたことをただ心の内で感謝して床に就くのだ。

ふつう女子たちが集えば、夜は遅い時間までガールズトークに花が咲くのがふつうだが、自立系武闘派女子のみが集うこの軽井沢リトリートにおいては勝手が違った。
それぞれが黙々と明日の戦闘の準備を整え、無言のまま眠りに付く。
武闘派女子の中でも「傭兵」と名付けられた彼女たちは、当然ながら明日をも知れぬ命である。
無駄な会話は情を生むことをその経験から学んでいるのである。

朝。眩しいばかりの快晴の空である。
6:30より各自が勝手に起き出し、そして、無言のまま装備を持ってそれぞれ戦場に散っていく。
そこに言葉はいらない。
朝の挨拶は当然、別れの言葉すら無粋である。

例え、同時に3人が玄関に並び立とうとも、決して誘い合うようなことはしない。
それぞれが自由に、勝手に、自分の興味の向かう方向に歩いていく。

ある者は旧軽銀座と呼ばれるメジャーな通りの、起きていない街並みを探索する。
ある者は諏訪神社を巡り、別荘街に足を進める。
ある者は別荘街にカメラを向け、その美しさに息を飲む。
そして、ある者は決して自分の戦果を語らない。

朝の軽井沢はひときわ美しい。
徒党を組んで周りに合わせることなど、楽しみを奪うものでしかないと知悉している彼女たちは、お互いの世界を邪魔せず、自分の世界を貫いていく。
自分が喜びと感じるところに意識を合わせ、自分が美しいと感じるものにただ感動する。
そのような誇り高き傭兵たちなのである。

***

ネタバラシ。

2日目の朝、温泉から宿泊地に向かった私たちは驚愕の事実を耳にしました。

「ねえ、昨日は何時まで起きてたの?」
「いや、すぐ寝ましたよ。みんな黙々と準備してそれぞれ布団に入って何もしゃべらずにただ寝ました。早かったですよ。12時くらいにはみんな寝てたと思います。」
「え?ふつう、女子たちが集まると夜中までいろいろしゃべってるやん?」
「昨日は違ったんですよ。それに朝だって6:30頃からそれぞれが勝手に黙々と起き出して、ゴソゴソ準備して何も言わずに外に出てくんです。」
「なにそれ?誰かを誘ったりとかもないの?」
「ええ、全然なかったですね。玄関で一緒になってもそれぞれ別々のところに行くんですよ」
「ええ?そうなの?一緒に行こうとかならなかったの?」
「ならなかったですね。めいめい勝手に散歩に行っちゃいました。しかも、帰って来ても『どこ行ってきたの?』とか聞かないんです。」
「それって、男やん。やっぱりお前ら・・・男やったんや。」

みたいな会話がなされて今日のネタが浮かんだのでした。

仲が悪いわけでもなく、かといって近づきすぎるわけでもなく、それぞれがマイペースで、自分がしたいことをしたいようにしていて、だから変に相手に合わせたり、必要以上に気を使ったりせず、自立的といえば自立的な、大人と言えば大人な、武闘派と言えば武闘派らしい休日になったようです。


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