東京の熱い銭湯に浸かって仕上がった夜。



今度、東京に来たら試してみたいことがあった。
ちょうど10日前、出雲にいた私は名湯・温泉津温泉の激熱な湯に浸かっていた。
その時の様子はこちらにレポを書いている。

「時間と距離、そして「ぬるい湯」の違和感について~温泉津温泉・元湯~」
https://nemotohiroyuki.jp/column/24436

その中で熱い湯の比喩として私の定宿のすぐ近くにある「熱海湯」を挙げている。
ここだ。

昔ながらの銭湯の風情を残す、その名の通り熱い湯を提供する銭湯である。

温泉津の熱い湯48度に5秒漬かり、ぬるい湯45度を気持ちいいと感じた私の体が、この熱海湯でどんな反応を示すのか?その実験は大いに意義のあることであろう。

さて、ここはタオルを無料で貸し出してくれるサービスもあり、番台越しに女風呂も覗けるシチュエーションを提供くださっているのであるが(残念ながら私がお釣りを待っている間はうら若き女子の姿はなかった)、最近は「サウナ&水風呂」のある別の銭湯に足繁く通うようになっていた。
温泉津温泉に刺激されて、久々の来訪である。

さて、温泉津で鍛えられた私の肌は所詮42度程度しかないこの湯をむしろぬるいと感じるのではないか?と意気揚々と洗髪・洗体の後、湯船に突入したのである。

しかし、そこはさすがの熱海湯である。

熱い。

足を突っ込むとじわじわと熱が皮膚を焦がしてくる。
しかし、すでにトラウマとなっている温泉津の温泉はこのあとさらにギアをあげて「痛い!痛い!あかん、あかん」と絶叫させる技を持っているが、熱海湯は優しい。
そこで、すーっと熱さは収まって心地よくなってくる。

とはいえ、熱いものは熱い。

そこで、いったん風呂を出て温泉津の常連おじいから学んだ秘儀「掛け湯20回」を強行する。

温泉津のそれは猛烈な痛みを伴う修行であったが、熱海湯のお湯は優しい。
すぐに体に馴染んできた。

そして、おもむろに湯に身を沈める。

熱いことは熱いがすでに気持ちがいい。

「おぉ、いい湯だ」

おそらくこのお湯に入って3年くらい経って初めてと言っていい言葉を口にしてしまった。
隣で「あつっ、あつっ」と言いながらすぐに湯船から出ていくおじさんを尻目に熟練工の如き落ち着きを見せていた私であった。

その後、水風呂のない銭湯では必須となる「蛇口から冷水を風呂おけに溜めて浴びる儀式」を経て私は無事仕上がったのである。

やはり銭湯はいい。
温泉ほどのインパクトも効果もないけれど、町中の鄙びた雰囲気を味わいながら浸かる湯は最高だ。
数度の温冷入浴を繰り返したのち、勇者の如き気分で服を纏う私がいた。

風呂上り、汗を滝のように滴らせながら飲む「フルーツ牛乳」はまた格別である。
歩いて10分ほどのサウナに通うならば、熱海湯の湯に身をさらすのも悪くないと、番台の親父とナイター中継を見ながら考えた。

入口に掲げられた誰も使わないであろうSNS用の看板。

こういう銭湯はぜひ長生きして頂き、末永く私を楽しませていただきたいと思う。

ただし、これだけ熱い湯にじっくり漬かると酒の酔いが予想を上回るスピードで我が身に襲い掛かる件について、同志たちには注意喚起しておく。


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