なぜか、今日泊まるホテルのクラブフロアに私は居た。本来ならば西宮のレンタルスペースでYouTubeの動画を撮影しているはずの時間だ。
ことの発端は彼が車に乗り込んできたときから始まる。
「あれ?なんでだろうなあ?おかしいなあ?どうしたんだろう?」彼はスマホを眺め、メールを検索し、うろたえた表情をしている。
西宮に確保したはずのレンタルスペースのメールがないと言う。
道路脇に車を止めて、さつDも私も協力してどうしたらよいかを検討する。本来ならば西宮に向けて171号線をかっ飛ばしているはずの時間である。
どうやら、予約していたはずの部屋が取れていないようであった。(実は今回で2回目の失態である)
彼は「すいません!」という言葉を発することなく、「どうしましょう??」と困った目をさつDと私に向ける。そして、当日予約可能なスペースを一緒に探すことになった。
彼との付き合いが長い私は怒ることもなく、まあ、しょうがねえなあ、と動画が撮影できる場所を頭の中で検索し始める。私なんかよりはるかにその類いの被害にあっている妻のさつDはすでに悟りの境地に達しており、ため息ひとつ付くことなく、次善の策を探し始めている。
そこでふと思い付いた。
今日はクラブフロアに部屋を押さえている。たしか、かのホテルのクラブフロアには宿泊者が無料で使えるミーティングルームがあったはず。
早速ホテルに電話を掛け、ミーティングルームにて動画を撮影する許可を得ることができた。
私のファインプレーである。
しかし、そんなことにも慣れっこである彼は感謝の言葉を述べることなく「災い転じて福となすだね!」と喜んでいる。さつDはため息なのか安堵の息なのか区別のつかない息をついて、後部座席でお昼寝の体勢を取り始めた。
神戸への道のりはかつて講座をするために、あるいは、講座を受講するために、何度も通った勝手知ったる経路である。無事ホテルにてチェックインを済ませ、いくばくかの追加料金を支払って、個室になってるミーティングルームにやってきた。
ちょうどクラブラウンジではアフタヌーンティーの時間であった。ゲストも自由に飲食できるシステムと知って、元々甘いものには目がないさつDも、最近酒を止めてスイーツに走っている彼も、撮影などどこ吹く風で山盛りにケーキやら、チョコやら、桜餅やらをかき集めてテンションをあげている。
しばしのティータイムのあと、YouTube用の動画撮影が始まる。今回はスケジュールの都合もあって3本録りであった。雰囲気も手伝って充実した内容になったと思う。来週よりさつDの血の滲むような編集作業を経て順次公開されるので楽しみにされたい。
撮影の途中、怪しげな影がすりガラスの向こうからじっと私たちを見ていた。顔がよく見えなかったので「通りすがりのおばちゃんが興味を持ったんだろう?」と思っていたら、なんと、以前から大変お世話になっており、未だに足を向けては寝られないゆっちさん、その人であった。
明日からのリトリートセミナーに参加するために彼女も前乗りしており、会場から程近いこの宿に部屋を取っておられたそうだ。すごい偶然!
さて、相変わらず、安定のクオリティを発揮して我々を振り回してくれる彼であったが、終始「こっちの方がよかった。いいミーティングルームだ!災い転じて福となすってほんとうなんだね!」とご機嫌であった。
ふつうならば猛反省して、私たちから慰められる立場のはずが、この会場を見つけたのがまるで自分であるかのように喜んでいる。それでも憎めないところが彼の最大の長所なんだろう。妻であるさつDの苦労は計り知れないが、確かに、こっちの部屋の方がはるかに素晴らしかった。要するに結果オーライなのである。