つくづく日本は平和な国である~福岡で起きた有難いお話~



その時、その時私は福岡空港で一番ショボイ到着口にいた。この空港、博多駅から地下鉄で2駅というロケーションにあることも素晴らしいのだが、第1~3ターミナルまである、その作りにとても格差があって面白いのだ。
第2、3などは近代的な設備を備え、東京みたいなハイソな空気が漂うのだが、一番古い第1になると、いきなりローカル空港の趣となる。
心なしか到着口で待っている人々もいかにも現地人的色合いが濃く、第2ターミナルで良く見かけるビジネスマンの姿はあまり見えない。もちろん、私はその土着の空気に良くなじむ雰囲気を持っているので、おそらく他の誰よりも場の空気を乱さずにいたと思う。

この日、経費をケチった我が家一族(妻娘息子)はPeachに乗って関空から福岡に到着する予定であった。しかし、そこはさすがはLCC。一向に飛行機が到着せず、到着予定時刻も表示されず、私は冷えたコーヒーを飲みつつ、新刊の原稿を書きつつひたすら待つこととなった。

結果、35分遅れで到着するのだが、その直前、私は生理現象によりトイレにて用を足していた。すっきりして個室を出たのであるが、しかし、その時、あろうことか財布もパソコンも入ったカバンを忘れて来てしまったのである。
そもそも私は落ち着きのない性格であるためキャリーバックをごろごろと引きずりながら、なかなか到着しない家族の飛行機を待っていた。そのときふとすれ違ったおっさんが、どこかで見たことのあるカバンを持っているのに気付いたのである。
こういう時の脳の回転は素早い。瞬時に自分がカバンを持ってないこと、トイレに忘れてきたこと、そして、そのおっさんが持っているのがまさしく私のものであるとものの0.2秒ほどで判断し、「あっ!ありがとうございます!」と即座に反応したのであった。
「おぉ、良かった。届けに行くところだった。」とおじさまは満面の笑みでそのバッグを疑いもせず渡してくれた。もちろん、パソコンも財布も無事であった。

日本は平和な国である。

写真家さんとの待ち合わせは地下鉄の姪浜という駅であった。
1,2度は訪れたことはある福岡の西の外れに位置する駅である。

昼前だったのでそこのカフェでランチを取り、待ち合わせの時間になったので出ようとすると例によって4歳児が「うんちする~」と言い出すのであった。
ふだん、何かと「うんこ!うんこ!うんこ!」を連発する彼だが、本物の時は「うんち」と言う。
違いの分かる父親である私は急いで手を引いてトイレに向かうのだが、なぜかそのトイレが遠いのである。

そして、ようやくたどり着いて子ども用のトイレを開けると、なぜかそこに婦人用の財布が置いてあった。
あまり堂々としたその佇まいに思わず「ん?場所取りか何かか?」と思ってしまったくらいであった。
すぐに「んなことあるかいな」と思い直し、息子のうんちに付き合うのであるが、あれだけジュースを飲んだくせになかなか出てくれないようである。

それを子供用トイレの外で待つ間、私はその財布をあからさまに手に持ちながら、むしろ通りすがりの人々に若干見せびらかすような素振りをしながら「私は盗もうとしているのではありません。管理事務所に届けに行きたいのですが、4歳の息子がうんちをしてるため、仕方なくここで待っています」というオーラを必死に醸し出していた。

それが奏功したのか誰にも怪しまれることなく、かつ、職務質問を受けることなく、無事息子のうんちタイムは終わり、「どこ行くの?うんこ行くの?うんこバイバイ!!」と早速うんこを連発し始めた息子を連れて管理事務所に財布を届けに行ったのである。
あまりにうんこうんこうるさいので、一瞬、こいつを落し物にしてやろうかと思ったりした。
無事、持ち主に届けばいいのだが。

日本が平和な国であることに少しだけ加担できた気がする。

さて、その後、撮影は順調に進む。
この旅、実は私と妻の写真を福岡在住の女性写真家さんに撮って頂くことが目的だったのである。彼女とは不思議なご縁を得て偶然知り合い、とても惹かれるものがあって撮影をお願いした。
公園にて人生初のロケ撮影をしたのであるが、ほんと、写真の撮影ってこんなに素晴らしいものなんだ、こういう風に作っていくものなんだ、という貴重な体験をさせて頂いた。

セルフ目隠し、うしろピース。

セルフ目隠し、うしろピース。

さて、今日の話は写真の話がメインではなく、その夜に出かけた素晴らしい天ぷら屋の話もしたいのだけどここでは割愛する。

翌日、福岡でも私が好きなエリアである百道浜に家族で出かけた。
ここが特に気に入っているのは、カフェのテラス席でぼーっと海や空を眺めながらスパークリングワインなどを傾けられる上に、目の前が大きな砂場(すなわちビーチ)になっているため子どもたちをそこで自由に遊ばせることができる点にある。

しかし、この日の福岡は予想以上に日差しが強く、また、気温も高かった。
従って、自然の法則に則り油断していた私の顔、腕、足はことごとく焼けたのであった。
私、こう見えて肌は敏感で、黒くなる前に赤くなる傾向があり、それがために沖縄帰りにえらい目にあってしばし病院に通ったことがあるくらいである。

まだそのことに気付かないうちに我が家一行は空港に向かうべくバスに乗った。
すると、しばらくして妻が「携帯がない!」と騒ぎ出すのである。

ま、いつものことだから、と思っているとそれは本当に無かったらしく、慌てて私たちはバスを降り、今まで辿ってきたルートを巡った。

カフェにも店にもどこにもなかったのであるが、この一連の流れで私には一つの確信があった。
たぶん、どっかで見つかるんだろうなあ、と。
おっちゃんはカバンを届けてくれたし、僕も財布を届けたし、ならば、携帯も誰かが届けてくれるんだろう、と。

しかし、できることはしようと西新のソフトバンクショップに出向いても解決策は見つからず、我が家一行は諦めて大阪行の機上の人となったのである。

伊丹に着くと私の携帯に着信があり、折り返すと、早良警察署とのこと。
一瞬、何か後ろめたいことがバレたのかと思ったのだが、よくよく聞いてみれば「携帯が百道浜の派出所に届いていて、それはあなたの知り合いのものなのか?」という平和な問い合わせであった。
どうもバスに乗る前に寄ったトイレ付近で落ちていたらしい。やはりトイレか。

しかし、わざわざ拾って届けてくれた方に心から感謝したい。

さて、その話を聞いて何も悪いことはしていないのだが、一応、ホッと胸を撫で下ろし、大阪に送ってもらえないか交渉することとなった。

しかし、そこはさすがは警察である。
翌日電話があり、「着払いで送ってください」は通用せず、もし、送付するのであれば手続きに1,2週間もかかると言うのである。

えーっ!?と目が点になるが、もし代理の人が委任状を持って取りに来てくれたらその方が早い、と警察の人が言う。

そこで福岡に住む暇な友人にすぐに連絡を取った。もしかしたら彼もまた後ろめたい出来事があって出頭を断られるんじゃないかと一瞬疑ったのだが、幸い早良警察署管内では良い子で過ごしていたようである。
すぐに快諾してくれ、翌日着の着払いで送ってくれた。
やはり持つべきものは暇な良い子の友人である。

無事届いた妻の携帯を眺めつつ、つくづく日本は平和な国だと思った。

この優しさをずっと守って行きたいものである。

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日々のミニコラム 
根本本。
根本本


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