執筆の裏話~心の柔らかいところを突かれ、直視させられる産みの作業の愚痴~



本を書けることはとてもうれしく、幸せでやる気になることなのだが、20冊も本を書いてきたのにいつもいつもそのプレシャーに押しつぶされそうになっている。
これはほんとうに全然慣れない。

今書いている寂しさや孤独感についての本も、得意なテーマだし、書きたいし、ぜひ、多くの方にその心理を知ってもらいたいと思うのだけど、書き始める前は何万文字もの壁が目の前に立ちはだかっているようで、何かと起稿するタイミングを遅らせようと画策する自分がいた。本来ならば沖縄にいる間にある程度、目途を付けたかったのだが、この空と海を前にしたら何もできねぇという言い訳を用意して、結局数ページを書いて大阪に戻ってきてしまった。

お尻に火が付く11月末頃にようやく本格的に執筆を開始させたのだが、書き始めたら書き始めたで、見えぬ先の展開に震えるし、書きながらもこれで良いのか?ちゃんど読者に真意が伝わるのか?書きたいことを表現できているか?という問いかけが常に頭の中を巡るので、集中しつつもびくびくしているのが正直なところだ。

要するに逃げ出したいのだ。本の締め切りを抱えていない日々がとても懐かしく感じるくらい、常に「本を書かなきゃ」という思いを背負いながら過ごしている。
書きたいし、やりたいことなのに、逃げ出したい、という矛盾を常に感じ続けるのが執筆中の私なのである。

これは何回本を書いても変わることがない。

しかも、終盤が見えてくると、書き漏れていることはないか?これで自分が伝えたいことはちゃんと表現できているのか?全体の整合性はきちんととれているのか?などの疑問(というか怖れ)がやってきてまたパソコンに向かう気力が削がれてしまう。

いつも明るいうちから執筆に取り掛かろうとするのだが、別の仕事に意識を向けたり(事実たくさんある)、料理や洗濯をすることで気を逸らしたり(それはそれでいい気分転換になるし楽しい)、面白い動画に見入ってしまったりして、気が付けば時計の針は深夜を指している。

そこで、逃げ道を完全にふさがれた感じでWordを開き、書き始めるのである。
そして、それを「自分は夜型だから」とうそぶいて正当化しようとしている。

私は手が早い(他意はない)ので、書き始めれば一気に数千~1万文字くらいは進められる。だから、意外と執筆時間は短く、最近は1冊の本を1か月もあれば書き上げられるのだけど(もちろん、途中、出張や現実逃避によりノー執筆デーも多数ある)、それを知ってからはますます現実逃避癖が激しくなった気もする。

要するに、いつまでたっても小心者で、ビビりで、葛藤しながら文章をしたためているのである。

文章を書くのは好きだし、慣れてもいるけれど、毎度毎度同じ壁にぶつかってしまう。

「ホテルに缶詰めになって一気に脱稿する」という戦法もいつも頭をよぎるのだが、きっと現実逃避に勤しむことに集中して一行も書き進められずにチェックアウトしそうで怖いのだ。

しかも、本を書いていると、なぜかそのテーマの世界に引きずり込まれてしまうことも多い。以前、自己肯定感の本を書いたときは過去を振り返る章で、様々な過去の思いに引きずられて一行も書けなくなったことがあったし、罪悪感の本を書いているときは心の内に秘めていた罪悪感があふれ出してきてなかなかの苦しみを味わったし、今回は寂しさと孤独がテーマだから例によってなぜか寂しさにどっぷり浸かるできごとが相次いだ。

だから、自分が書く本は結果的に自分の心の内側を描き出す作業になり(頭の中の知識や情報を吐き出す場ではないらしい)、いつもかなりのエネルギーを消費する。

そういうわけで、執筆中はなかなかピリピリしてしまい、また、自室に引きこもることになるので(だからと言って本を執筆しているわけではないのだが)、家族にもそれなりに迷惑をかける。
今回はまだマシだと思うけれど、以前はかなりイライラして家族に当たることもあった。

ちなみにこんな話を書いているのも、本を執筆中にふと思いついたことをツイッターかブログで書いてしまおうと思ったからであり、言葉があふれてきて140文字では当然収まらないのでブログに書いている。もちろん、それもまた現実逃避である。

人の心は弱いし、何かと怖れが常につきまとうものだけれど、本を書いていると、そんな自分の心の柔らかいところを直視させられているようで、その作業はなかなかハードだと思う。

そういう意味で、私の本は必ず上昇カーブを描き、読者に良い気分、希望を感じられる状態に持って行くことを常としているのだが、それは当然ながら自分自身の心の状態をちゃんと上昇させるための必要な措置なのである。

そういう意味では読者のために描いている体で、実は自分自身のために書き下ろしているのかもしれないと、いつもどこかに自分本位的な思いを感じてモヤモヤしている。もっとちゃんとした作家になりたいと思うのだけど、どうやらそれは自分には向いていないみたいだ。

・・・ということで、現実逃避も一息ついたので執筆に戻ろうと思う。

根本さんもそんな風に思いながら本を書いてるんだ、へえ、そうは見えないけどー、なんて思っていただきながら読んでいただけたら幸いである。

ちなみに今回の本は坂本龍一氏の曲をBGMに書き進めている。特に rain が大好きで、何度もリピートして聴いている。この本のテーマにとてもぴったりな気がしている。


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