「世界なんて滅んでしまえばいい、と思う瞬間」


2月のはじめ、切迫早産で入院中の妻を見舞った際に起きた悲しい事件について今日は話をしようと思う。

その日は学校から帰り、宿題を済ませた娘と一緒にお見舞いに向かった。病室で、娘は当時新品だったiPadに夢中で、お絵かきやらゲームで遊んでいたのである。

私と妻は体調のこととか、周りのこととかを話していて、とても平和的な時間が過ぎていった。

しかしである、妻が発した一言で状況は一変する。

「そういえばミズキのことを好きな男の子がいるんだって?」

ほほー、微笑ましいではないか。ま、たしかに我が娘はかわいいし、性格はいいし、愛嬌もあるし、なんたって明るいし、それでいて天然だし・・・(バカな親の賛辞が続くため中略)・・・、そりゃあ、彼女を好きな男の子の一人や二人はいるわな。

ま、正直、パパのテンションも上がるのである。


「お、誰なん?どんな子?」

とミズキに聞きながら、先日行った参観日でチェックしたクラスの男子の顔を思い浮かべる。

学校の授業参観日は、美人のママをチェックしたり、将来美人になりそうな女の子をチェックするだけが目的ではない。娘に何らかの悪さをしでかす可能性のある馬の骨どもを厳しくチェックし、事前に睨みを利かせておく大切な場でもあり、当然私もその点に抜かりなどないわけである。

娘は何とナシに恥ずかしがっており、ママやパパが2,3度聞き出すまではiPadから目を上げようとしない。

ところが、事件はその後に起きた。

娘が、パッと椅子から立ち上がり、ベッドに寝ているママの耳元に顔を近づけ、何やら話しを始めるのである。

椅子のすぐ横にいたパパはスルーである。

人はショックなできごとがあると、一瞬、何が起きたか分からず、場違いな薄ら笑いを浮かべるものらしい。そのときの私がまさにその状態であった。

娘を好きな子がいること自体、素晴らしいことではないか?
それをなぜ、パパをスルーして、ママにだけこっそり教えるのだ?

狭い病室ではあるが、一瞬、無人島に取り残される気分ってこのようなものか?と思ったのである。

ママと娘のこそこそバナシは続く。悲しいかな、パパはそこから漏れ聞こえる声に耳を澄ます。

「え?はしもとくん?りょうたくん?え?どんな子?そんな子いたっけ?」

確かに、あまり印象はないのだが、その名前の男の子は娘の何席か隣だったような気もする。しかし、ノーマークな存在であった。

「へえー、で、ミズキはそのはしもとくん、だっけ?その子のことは好きなの?」

無言に頷く娘。

「すごーい!1年生で両思いじゃない?」

そう、喜びの声を上げるママとは対照的に、「ああ、世界なんて終わってしまえばいいのに」というセリフは今、こういうシーンで使われるんだな、と天井を仰ぎ見る私がいた。

そして、ママは核心を突いた。

「でも、なんで、パパには内緒なの?パパにも言えばいいじゃない」

いやいやをする娘。
心が折れ続ける父。

「え?恥ずかしいの?違う?」

それ以上、妻も追及しない。きっと「罪悪感」という感情を感じてることに気付いたのであろう。

パパというものがありながら、結婚まで約束しておりながら、他の男を好きになってしまう罪の意識をきっと彼女は感じているのだろう。(違う、という意見は受け付けない)

そういうことであれば、パパもその罪を軽くしてあげよう。

「ミズキ、その子と付き合っちゃえばいいやん?」

「そうそう、ママもそうしたほうがいいと思う。すごいねー、1年生で彼氏が出来ちゃうなんて。」

恥ずかしそうな、娘。
きゃっきゃっと喜ぶ、ママ。

・・・、パパ。

あとで妻とその話をしたのであるが、「まだミズキは、おぼこいので付き合うってことが良く分からないらしい」ということである。

何だか残念のようでいて、ちょっとホッとしたパパであった。

とはいえ、快挙である。

何でパパをスルーするのかな?というショックから立ち直るには少々時間を要するが、好きな子がいて、その子も娘のことが好きだというのは、若干微妙な気持ちも混じるのであるが、快挙である。

将来、「初めて彼氏ができたのは小学校1年生のときかな。同じクラスのHくん。とてもイケメンで性格が優しい男の子。3ヶ月くらいは付き合ってたけど、クラスの別の男の子のことが気になり始めてちょっと二股になっちゃって・・・」なんて語って欲しいのである。

実は私、母親からの特殊な影響を受けていて、娘に彼氏が出来たりしても「失う」という気持ちにはならないのである。
「パパはパパ。絶対的な唯一無二の存在で、彼氏とかとは別次元のもの」と思い込んでいるからである。

(その時点で相当ウザイ存在であることは間違いはない)

だから、彼氏が出来てもパパはパパとしてNo1であることは譲らないのである。ふふふ。

そして、私のヴィジョンはまさに娘からの恋愛相談を受けることであり、中学生くらいになった娘から「ねえ、パパ。A君、B君、C君・・・。どの子も素敵なんだけど、1人にしぼらなきゃダメなの?もし、絞るんなら、パパだったら誰がいい?」と相談されることなのである。

うわっ、うぜー、ありえねーと思った全国の淑女の皆さん。
この私の“ヴィジョン”に関する、苦情・中傷・慰め・同情は一切受け付けないし、間違っても「可愛そうで、残念な人を見る目」で私を見ないようにお願いしたい。

しかし、その一件の以後、パパと娘の関係は以前にも増して良好なのであるが、一切、“彼”についてはお互い触れないままである。
まるで、暗黙の了解のように。


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