二兎を追うもの・・・の運命



一人芝居の芸にさらに磨きがかかる娘。
先ほど「しまじろうのパパと電話する」という設定で、僕には意味不明だが、色々と深い話をしていた。

さて、食事中もおしゃべりに夢中でママからの叱責の耐えない娘も最近は要領を覚え、誰に頼めば言うことを聞いてくれるか認識し始めたらしい話を一つ。


我が家では、おかずをたくさん食べるとご褒美にご飯にふりかけ(呼称:パッパ)をかけてもらえるルールが存在する。

例えば、なかなか食が進まない時は「おかずを全部食べたらパッパをあげるよ」とママが奨励する。
娘も始めは「わーい」と喜び食べ始めるのだが、おしゃべりやお遊びに忙しくてなかなか進まない。

でも、ふりかけは大好きなので、何とかそれをもらおうと「ママ、パッパちょうだい」とあの手この手で頼むものの「これ食べたらね」とか「そんなに残してたんじゃあげられないわね」とか言われて撃沈することが多いのである。

そんな娘が今日、普段は聞きなれない優しい猫なで声で「ねえ、ぱぷぅ~。パッパかけてもいい?」と僕の方に向き直ってきた。
ドキッとした。
久々にときめいた。

瞬間的に跳ね上がるように席を立とうとし、正面に鎮座する妻を見ると、その瞳が「あんた、もし言うこと聞いたらどうなるか分かってるわよね」と語っていた。
ドキッとした。
久々に血の気が引いた。

「も、もちろん、そのような粗相は致しませんッ」
と妻に目で合図をすると、その気配を察した娘が再び
「ねえ、ぱぷぅ~。ミズチはパッパ食べたいのよぉ」
と普段は決して見せない甘えた声でねだってくる。

娘はその瞬間、意図的に妻から目を逸らしているが、僕は目の隅に妻の表情をしっかり捉えており、ここで一瞬でも誤った行動を取れば、妻か娘のどちらか、もしくは両方を失いそうな気配が漂う。

たかが食事時と言う無かれ。

それはまさに本妻と愛人がばったり玄関先で出会い、さりげない挨拶を交わしてすれ違おうとする図に非常に似ていた。

妻はいつも一生懸命作る食事を娘によって毎回反故にされており、普段は優しい表情の影には積年の恨み辛みがしっかりと地層を形成している。
一方、反抗期を迎えている娘はいつまでも妻の支配下に置かれることを良しとせず、いつ反旗を翻して独立宣言をしようか形勢を伺っている状態である。
(因みにパパはその権威に基づき、その間に挟まれることもなく、ただ指をくわえてオロオロと見守るだけである)

そんな情勢での娘の新手である。

緊張感はいや増し、背筋を冷たい汗が流れ落ちるのがはっきりと感じられる。

そして、僕は娘と妻を視界に捉えつつ、決意の一手を振り出すことにした。

「はーい!パパで~す!ミズチはパパが食べたいのかー?いいよぉ~。たくさん食べてね!!」

と“パッパ”と“パパ”をかけた寒いギャグを放ち、「はぁ・・・。なんでこんな人と結婚しちゃったんだろう」とため息をつく妻を横目に、呆然としている娘に抱きついた。

「いやー!いやー!ぱぷぅ~、やめてよぉ~。そのパッパじゃないのよ~。あっち行ってよ~」

まだ、この高尚なシャレが通じるほどに脳が発達していなかったことが悔やまれる。

日々のミニコラム

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