お誕生日会。



イベント好きな我が娘の通う幼稚園では、毎月一度、その月のお誕生日の園児をスターに見立てた“お誕生日会”というスペシャルイベントが開催される。
その日、主役になる園児達は、他の子とは違って体操服に着替える必要はなく、制服の胸に赤いリボンなんぞを付けてもらって、鼻高々に過ごすのである。


そうして全園児300名を前に、担任の先生から、

「こぶた組 ねもとひろゆき君」

と名前を呼び上げられ、クラスメイト並びにその他大勢からから、

「お・め・で・と・ぉーーーーー!!」

と幼稚園児のすさまじい大声にて祝福され、そのテンションに背中を押されながら正面に据えられたひな壇の上に乗るのである。

そして、一人ずつ名前と誕生日をマイクを通じて発表し、さらに全園児のすさまじい大声にて

「お・た・ん・じ・ょ・う・び、お・め・で・と・ぉーーーーー!!!」

の大合唱を受けるのである。

その日、ひな壇上の園児達は全員がこの世に生まれてきたことを喜び、周囲の視線を一身に引き受ける“特別な日”であることは疑うべくもない。

もちろん、その月に生まれた園児全員がその栄光に浴することができる、全園児、羨望のイベントである。

さて、我が家に生息する幼稚園児は3月生まれである。
周知のとおり、日本では4月から新学年がスタートする。
ゆえに3月生まれの園児は、12番目の登場であり、「大トリ」と言えば聞こえがいいが、要するに、一番ビリである。

娘は4月に入園して以来、目を輝かせて、この素晴らしいお誕生日会を心待ちにしていたのである。

毎月、お誕生日会が開催されるたびに、自分が3月生まれであることをイマイチ理解していない彼女は
「今日も、ミズチと違ったわ」(関西風のイントネーション)
と嘆き、
「今度はミズチかな?ね?」(同上)
とか
「ああ、いつになったら、ミズチの誕生日会があるんかなー?」(同上)
と、実に11回も連続して振られた結果、この日を迎えたのである。

当然、前の晩からテンションは高かった。
その直前の別のイベントには風邪のため参加できずに悔しい思いをしているので(ほんとうにうちの幼稚園はイベント、それも音楽がらみが多い。)、今回にかける意気込みも相当なものであった。

なお、このお誕生日会には、その月に誕生日を迎える園児の父兄のみ参観が認められるため、われわれ夫婦にとっても一年間待ち望んだイベントである。

しかも、各種イベントに保護者をさりげなく巻き込むテクニックに関しても定評のある娘の幼稚園では、お誕生日会にはそのママが「歌と踊り」をみんなで披露する習慣があり、この日も9:30にはホールに集合して、「ヤンチャリカ」はじめ2曲の歌と振り付けを習っていたりもした。
当然、奥様も張り切って参加し、いつもどおり、なぜか笑えるかわいい踊りを演じていたのである。(妻の動きは何故かコミカルな感じがして面白くてかわいいのである。因みにうちの研修生のYちゃんも似たような動きをよくしている)

そして、お誕生日会。

やはり300名近い幼稚園児を一同に集めるのは、かなりの無理があると思う。
会場となるホールは、そこに居るだけでありとあらゆるエネルギーを吸い取られる“気”に満ち満ちており、そのテンションや落ち着きのなさは、うちのセミナーをはるかに凌ぐ規模で展開され、更に、脱走園児、寝転び園児に甘えんぼう園児とまさしく“蠢く”様が展開されている。

さすがに年少さんでも1年近い通園実績があるためか、号泣園児はかつて程の勢力を保っていなかったが、それにしても、そんな園児たちを統率する先生方のパワーには脱帽する他ないのである。

私のお客さまにも幼稚園や保育園の先生が多数いらっしゃるのであるが、幼稚園に行くたびに更に尊敬の念を強めている。

※なお、個人的にファンである副担任の原先生が以前よりも元気を取り戻されていたのは幸いであった。きっと幼稚園児パワーに免疫が出来てきたのだろうと思われ、胸をホッとなでおろした次第である。

さて、そんな一大イベントで、うちの奥さんも自らの歌と踊りの披露を心待ちにしている頃、我が娘もニコニコ投げキッスと共にホールに登場した。

ところが自分の名前を呼ばれてひな壇に登っても無表情である。

いや、よくよく撮影中のビデオをアップにしてみれば、完全ににやけている癖に、それを隠そうと無表情を装っているのである。
ふにゃふにゃする態度や、時々我慢しきれずにこぼれる笑みに、その本音は表されていた。
マイクが回ってきて自分の名前と誕生日を言う順番になっても彼女は嬉しいくせに、無表情を装って、非常に小さい声でしゃべっていた。

しかし、その声はか細いながらも、とてもかわいらしく、きっと声優としてデビューしてもやっていけるのではないかと思われるくらいの美声であり、私の心にしっかりとトキメキを残してくれた。

※なお、個人的にファンである副担任の原先生がうちの娘と同じ3月生まれであり、しっかりその日を記憶させて頂いた。残念ながらもう春休みに入っている頃ではあるが、陰ながらお祝いの念をお送りさせて頂こうと思っている。(もちろん、妻には内緒である)

そして、全園児から祝福のおめでとう!をかけてもらい、教室に戻れば、今度はクラス単位でのお誕生日会が開催されるのである。

なんと素晴らしいイベントであろうか。
しかも、先生達の愛情を独占することができ、みんなに名前を呼んでもらえたり、握手したり、先生に抱っこしてぐるぐるしてもらえたり、否応なく「生まれてきた良かった!!」を実感できるに違いない。(注意:別に原先生に抱っこしてもらった娘が羨ましいとか、そういう話ではない)

しかし、うちの娘は相変わらず照れ隠しの無表情を装っており、声はか細いままである。

「だって、恥ずかしいんだもん」
と後から弁明をしていたが、何となしに自分自身を見ているようで微妙な気分になる。
(因みにうちの奥さんが幼稚園児の頃は非常にお転婆でガキ大将であったらしい)

この典型的な内弁慶外地蔵の娘に、場数を踏んで根性を付けさせようか、とも思ったが、まあ、自然体が一番良かろう。

とはいえ、大量に休みながらも一年こうしてやってこれたのは感慨深い。
1歳近く年の違う子供たちに混じって信じられないくらいに成長したのは、とても嬉しいものである。
うちの奥様と共に何度もじーんとさせてもらった。

こういうイベントはやはりとても大切だと思った。

よくよく思えば、300名はいなくても、うちの会社も似たような目標を持ったセミナーを毎月開催している。
思わず初心に帰らされたような気がして、意外な恩恵をもらったような気がした。


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