先日、大阪のカウンセリングルーム近くのコーヒーショップへコーヒー豆を買いに行ったときのことである。
我が家はある事情により豆を挽いてもらう必要がなくなったのだが、その事情ゆえに豆の消費量が一時的に増えてしまい、ストックが残り少なくなったのである。
機嫌よくオーガニックブレンドのコーヒー豆を200g×2袋頂いた。
以前であれば1袋で十分だったのだが、「あ、豆が切れた。じゃあ、今から買いに行って来るわ」とクロックスで出かけられる距離から随分遠くに転居してしまったために、2袋は購入しておかないと安心ができないのである。
コーヒーを美味しく飲みたいときにストックがないときの辛さ、悲しみ、苦しみ、怒り、憤り、絶望は趣味を同じくする皆さんにはご理解いただけると思う。その点、マニアは繊細である。
さて、200gを真空パックしてもらっている間に、ふと目の前の器具に目が留まった。
ポップには「ウォータードリップコーヒーサーバ」と書いてある。
「ふーん。水出しコーヒーか・・・」と、さらに詳しい説明書に目を走らせていると、真空パックを終えたお姉さんが、「お待たせしまし・・・あ、それいいですよ~」と前のめりでやってきた。
運の悪いことに、その時応対してくれたのは、うちのカウンセラーで言えば成井裕美に似たお姉さんである。
しかし、そのお姉さんは、万事気の利く成井と異なり、私のことを「ねぎを背負った鴨」もしくは「大根を咥えた鰤」との解釈をしており、ニコニコしながら「これはね、ほんとに美味しく出るんですよ。夏の暑い時には凄く重宝しますよ」とセールストークを展開する。
私は鴨であり鰤であるからして、もはや抵抗はできない。
なんせ、そもそもがコーヒー好きであり、いずれは水出しコーヒーをじっくりと自宅で味わってみたい、と渇望していた人間である。
故にあっさりと陥落し、アイスコーヒー用の豆200gと共にお会計へと進むのである。
まことにもって商売のうまい店である。
しかし、そこでふと頭を過ぎることがある。
私が歯の立たない女性は、その成井に似た店のお姉さんだけではないのである。
自転車をほんの数十分走らせた先に住んでいる女性(陣)に思いを馳せれば、先日、コーヒーミルを購入した際の「これなにかなあ?」「またぱぷぅ変なもの買ってる~」との声が生々しく耳に蘇るのである。
一瞬、ヒヤッと背筋に冷たいものが走り、普段以上の高速回転により「言い訳」を考えるのであるが、何せ、普段あまり使わない機能だけにいいアイデア(=言い訳)が浮かばない。
苦慮しながらもポイントカードを出すと、なんとそこにはそのウォータードリップサーバを購入するに十分なポイントが溜まっているのである。
神は存在するのである。
なぜか、勝ち誇った表情で「じゃあ、これは、ポイントからお願いします」とお姉さんに告げる私であった。
言い訳も浮かび、新しいおもちゃも手に入れた私は嬉々として自宅に帰り、慎重に豆を挽き、そのコーヒーサーバをセットした。
つい、ぽたぽたと一滴ずつ落ちる水とコーヒーに目を奪われてしまう。
440mlのアイスコーヒーが、2時間半ほどで完成するとのこと。
待ち遠しいが、仕事やTVを見ながら待ってみた。
そして、2時間。
翌朝に取っておこうと思ったが、我慢しきれずにグラスに注いで一口飲んでみた。
(申し訳ないが、この話に笑えるオチはない)
なんと!
天衣無縫ともいえるまろやかさに、しっかりと濃いコーヒーの風味。
嫌な後味もなく、すーっと喉の奥に消えていってしまう。
これは・・・と絶句してしまった。
この夏は大いに楽しめそうである・・・。
翌朝、おきてきた奥様がさっそく試飲されていた。
氷を入れるといいよ、と言い忘れていたが、「濃いけど美味しいね」と一言。
合格、ということである。
しかし、そんな親を冷たい目線で見つめながら、「いいなあ、大人はー」とため息を付く少女が一人。
そこで、「じゃあ、ぱぷぅのほっぺ、思い切り飲んでいいよ」と右頬を突き出しながら突撃し、本気で嫌がられたことは余談である。
それにしても、美味い・・・。