その店に入ると、彼女の気配が一変した。
応対に出てきた男性は、イケメンで、気の良さそうな素敵な人である。
それだけで、彼女にとっては、心を大きく揺り動かされるに十分であった。
以後、ソファ席から厨房の方をひたすら覗き、その彼と目が合うと、きゃっと言って隠れる。
彼がいたずら心を出して、彼女に近づいてくると、きゃーきゃー笑いながら逃げ惑う。
そして、彼が厨房へ去ると、再び、そろーっと顔を出して、その行方を追う。
彼女はこの上なく幸せそうだ。
他のお客さんが少なかったことが幸いで、ひたすら、彼女は彼を追い、きゃーきゃー騒ぎ、隠れ、まるで思春期の女の子がアイドルを目にしたような態度を取り続ける。
さすがは1歳のとき、ルームサービスを持ってきてくれたイケメンなお兄さんに、1歳児とは思えぬ声音を使って、うっとりしていただけはある。
それから4年も過ぎれば、まあ、思春期ほどに成長していても仕方がないかもしれない。
しかし、小一時間、幸せなときを過ごした後、彼女に戦慄の告白がなされた。
5月いっぱいでこの店を辞めて、西中島に店を出すそうだ・・・。
せっかくご縁ができたのに・・・残念やね・・・。
このまま成長し、ほんものの思春期には、堂々と色目を使える女になって欲しいものである。