(番外編)韓国旅行・・・in 大阪・鶴橋



沖縄での社員旅行から帰ってきたと思ったら、今度は韓国である。たらふく焼肉やらホルモンやら海苔巻きを食い荒らすのである。
ただし、交通費は片道400円。
日本最大とも言われる大阪・鶴橋界隈のコリアンタウンを巡る旅である。

昨年、この手の濃い系料理の趣味を同じくする原同志と第一回目を挙行した際は、鶴橋の駅前に立ち並ぶ高級焼肉店には目もくれず、主に東側の商店街の軒先で海苔巻き、トッポギを食し、高架下でホルモンを食らい、店内はもちろん、客との会話も日本語ではない店でホルモン鍋を腹に収め、非常に充実した一日を過ごした。

当日の名目は「鶴橋で仕事の打ち合わせをしよう!」ということだったので、帰りがけには駅構内の小汚く時代がかった喫茶店にて綿密にミーティングを行い、きちんと目的を果たしたのであった。
もちろん、家族へのお土産(キムチ)も忘れずに購入し、家に帰った途端、「にんにくくさーい!」とファブリーズされたことも記憶に新しい。


さて、今回は原同志に太一同志も加わった3名での旅である。
前回はろくな知識もなく駆け巡ったため、見落としていた点が多数あった。
それを反省し、多少は予備知識を投入してのツアーである。

この3名のスケジュールを合わせるのはなかなか難しいため、1ヶ月以上も前からこの日が設定されていた。
ゆえに長らくお預けを食らっている状態であった我々3名は、当日、非常に気合が入っていた。

あまりに気合が入っていたために、まず太一はよりによって“鶴橋”と“京橋”を間違えて途中下車をし、一本電車を乗り過ごした。
かく言う私は一つ手前の玉造にて先走って途中下車し、目の前で太一の乗った電車を見送る羽目にあった。その過ぎ去っていく電車の窓に太一の姿を発見し、妙に切ない気分になったものである。
そして、原は電車の時間を計算し間違えて、何と45分も前に現地に着いてしまい、することがないので、近所を下見していた。

なんだか全員が「前の晩、遠足が楽しみで興奮しすぎて眠れなかった」ような感じである。
そんなやる気がくるくると空回りする3人組ではあったが、気を取り直してどこから手を付けるかを議論するところからこの旅は始まった。

まず私が露天にてビール+トッポギ+ホルモンからスタートする案を提案する。
しかし、それでは前回と何ら変わらない旅で面白味がないと、提案者の私も含め、一同否定的な空気が流れ出す。我々は一見、人のいい穏健派のように見えて、実は内心頑なな主張を持ったオヤジ達であり、嫌なものは嫌というわがままな空気を遺憾なく振りまく癖がある。

そして、常に新鮮さを求める我々は、非常にディープな店と評判の「アリラン食堂」へと足を向けることとした。

韓国の食材が並ぶ市場内をずんずん進み、見慣れたキムチ屋街を通り過ぎ、徐々に薄暗くもディープなアーケード街へと足を踏み入れる。
しかし、高鳴る胸と反して、いまいち場所がよく分からない。そこで、自分達の地理感覚に自信のない我々3名は、韓国雑貨を扱う店のおばちゃんを尋ね、片言ながらも流暢な日本語で道を教えてもらう。

さらにワクワク感を増大させながら商店街を進んでいくと、現れました!そのアリラン食堂。

鶴橋・アリラン食堂門構えもたいそう立派なつくりをしていて、思ったよりも全然きれいな感じで、日本語もきちんと通じるごくごく素敵な料理屋であった。
「全然ディープって感じやないやん?」と我々は落胆と安堵が交じり合った表情で語り合う。

ただし、壁のポスター類は韓国スター達が笑顔を見せており、テレビもずーっと韓国のテレビ番組を放送していた。
時折店主と客が交わす会話は韓国語で、店のおばちゃんのメモも立派なハングルであった。

さて、衛星放送なのかは分からないが、TVに流れる他国のCMを見るのは非常に面白い。
私は出張中には地域のローカルCMを見るのが趣味であるから、思わずテレビに釘付けになってしまった。何となく、アメリカを髣髴させるようなCMが多かったように思う。

さて、メニューの豊富さと腹の空き具合からいきなり大量に注文してしまう。
しかし、昼間から堂々と飲めるビールは最高に美味である。願わくば韓国ビールがあったら嬉しいのだが、残念ながらアサヒであった。

ここでは大きく二つの発見をした。
一つは、イカ炒めがこれまで食べた中で一番旨かったこと。東京・五反田の名店でも幾度となく口にしていたのだが、このアリラン食堂のイカ炒めはほんとうにそれ以上にうまい。辛いようで甘い、そして、イカはぷりぷりで、野菜もまだまだ生きていて、かなりの絶品であった。

もう一つは、チヂミが異様に旨い。正直、炭水化物系であるチヂミは酒好きな私にとってはあまり箸の進むメニューではない。
しかし、おばちゃんのちょっと押しの強い勧めに押されてオーダーしたそれは、いくらでも食べたいほどの美味であった。一同、チヂミがこんなにうまいなんて・・・と一気に平らげるほどの勢いであった。
これはお土産に買って帰りたいなあ・・・とは、それぞれ家に妻子を残してきている罪悪感からであろうか?

オヤジ達の旅に、家族の話題は半ばタブーである。
「ほんまは嫁さんもコレ食べたいんやろな」
「うちの奥さん、こういうの好きやもんな」
そんな思いを感じたら最後、気のいいオヤジ達は即刻罪悪感まみれになって酒量が一気に増えてしまうのだ。

アリラン食堂・カムジャタンさて、この写真はカムジャタンという鍋料理である。
野菜も肉も期待を裏切らぬ旨さであり、また、ビールもがんがんに進む。
辛いのか、辛くないのかが微妙なうちに、それぞれの額からは汗が滴り落ちてくる。
私が以前、うまい唐辛子料理に出会うたびに経験する“無意識で感じる辛さ”である。
ついつい、箸が泊まらず、腹いっぱい食べてしまい、これがまだ1軒目であることを危うく忘れるところであった。
(前回のツアーでは4軒ほどハシゴをしたため、今回も同様の数値目標を掲げていた。)

さて、こんなにうまいんなら、焼肉だってきっと革命的なうまさではないか?と一同合点し、おばちゃんを呼ぼうとした刹那、「今後の予定を考えると、それはやめたほうがいい、我々は焼肉店をハシゴするほど若くはない」と暗黙のうちに気づいた我々は、名残惜しくもアリラン食堂を後にして、次なるターゲットと向かうこととした。

さて、私が調べたところによると、この近くに鶴橋とは別のコリアンタウンが存在するという。
しかし、場所はよく分からない。
よってまずは勘に頼って歩き出す。何でも今里の方らしい・・・桃谷に近い方らしい・・・とのあいまいな記憶のみが便りである。

散々歩いてみたもののそれらしきものは全然見えてこない。
よって今度は本屋さんのおばちゃんに道を尋ねることにした。実は大阪でおばちゃんに道を聞くのは非常にリスキーな行為であることが多い。その親切心から「全然知らないのに、まるでそこに住んでいるかのようなリアリティで道を教えてくれる」からである。
そのため、道を聞く前におばちゃんを選別する必要があるのだが、一番無難なのはそこで商売しているおばちゃんである。間違っても道行くおばちゃんに道を聞いてはいけない。

さて、その書店のおばちゃんの親切な情報によれば、我々はまったく違う方向に足を進めていたようで、「ちょうどいい腹ごしらえになったんじゃないか」とお互いを慰めつつ、おばちゃんの指示通りに歩いていくと、御幸通商店街へと辿り着く。

やはり知らない街を歩くときは地図の一つくらいは持ち歩いたほうがいい。

さて、この御幸通商店街は、門構えからして堂々と「Korea town」と銘打っている商店街である。
ディープな世界を想像してワクワクしながら訪れたものの、これまた至ってきれいな商店街で、鶴橋が観光客向けの市場とすれば、こちらは地元に住んでる韓国人のための商店街のような雰囲気であった。

しかし、ディープな雰囲気でははるかに鶴橋の近鉄高架下が上回るが、ここに並ぶ食材や人々は見れば見るほど異国である。
以前、韓国に旅行したことのある原が「これ韓国で見たことある」と連呼するほどに私にはよく分からないものがたくさん並んでいた。

とはいえ、やはり随分と観光化されているところも多く、何となく地方の土産物屋街に近い感覚すら覚えてしまった。このまま、韓国人のための商店街であり続け、そこに時々我々がお邪魔させてもらう空間であり続けて欲しいと願うばかりである。

さて、この御幸通商店街には若いくせに異様にグルメな友人が勧めるキムチ屋さんがある。
20代半ばでそんな舌を持ってしまうと将来が大変じゃね?と要らぬ世話を焼きたくなるのであるが、彼女のお勧めは大阪だろうが、福岡だろうが外れはないので安心である。

店の前にずらーっと並ぶキムチを眺めながら、旨そうなものを3つほどオーダーする。
いつ見てもキムチの種類の多さには驚かされる。ありとあらゆるものを漬け込んでいる感じで、思わず京都の漬物店を思い出してしまった。
そこもすぐきや千枚漬け始め、ありとあらゆる京漬け物がタライに飾られている。

キムチも漬物も、それだけでご飯が何倍も行けるほどに私は好物である。

さて、そこでは一番人気というオイキムチ。私の大好きなカクテキ。そして、うちの奥さんが大好きな水キムチ。
最小単位が500gということで、早速重たい荷物を抱えてしまったのであるが、楽しみの荷重と思えば嬉しいものである。(帰宅後、妻と早速味見をしたのだが、やはりこの山田商店のキムチは異様に旨かった。)

さて、この商店街には我々好みのちょっとディープな店がなかったので、再びアーケードとバラックでできたような鶴橋の市場へと舞い戻ることにした。

ここにはディープ好きな原がかねてから目を付けていた焼肉屋がある。

「前にホルモンとか海苔巻きを食べた、鶴橋の露天の店あるでしょう?あのすぐ横に、小さいけれど、とても怪しげな焼肉屋があったんですけど、そこに行きませんか?」

そんな誘いに間髪入れず「いえーす」と答える我々は変態である。

そして、わくわくしながら鶴橋の市場への道を進む。この辺の地理はなぜか頭に入ってしまっているので、迷うことなく目的地周辺に到着し、「え?どれ?どれ?」と周りを見渡すと、ふふーんと得意げに原が指した店は、角のチヂミ屋の横にあるボロボロの扉を持つ、素敵な昭和40年代の店であった。
後から気がついたのであるが、このチヂミ屋と焼肉屋はアコーデオン・カーテン(!)1枚で繋がっており、店員は自由に行き来できる。また、そのチヂミを焼いている後ろには有名人のサインが所狭しと並んでいる(本物かどうかは分からないが)

さて、そんな歴史ある概観の扉をがらがらっと開けると「何しにきたん?」と言いたげなおばちゃんが出迎えてくれた。
昼飯時をすっかり過ぎている時間だからなのか、タバコをふかしながら愛想がない。
むしろ、日ごろ女性に頭の上がらない弱いオヤジ達は「す、すいません。焼肉を食わせていただけませんでしょうか?あ、もし、用事などがあるんでしたら、その後で結構です」と、主客の逆転した態度を取って、そろーっと席に着く。

それはまるで「近所の悪ガキが家から追い出されて暇つぶしにおばちゃんの店を訪ね、くどくどと説教されながらも焼肉を出してもらう」ようでもあった。

ノド(ホルモン焼き)とはいえ、そんな無愛想で、やる気があるのかないのか分からない様子なのに、旨い肉(ホルモン)を出すんだから大阪は面白い。

この写真はノド肉を焼いてるところ。これがまた旨かった。

そして、恐縮しながらも、うまい肉に舌鼓を打ち、早々に退散した我々は、うろちょろと市場を徘徊しながら「落ち着いて焼肉を食いたい」との意見の一致を見、前回も最後の店と決めた「明らかに日本語が不得手な韓国人がやってる店」へと入店した。
市場のアーケードの途切れた、近鉄の高架のすぐ横にある店である。

普通ならば店を閉めてもいい3時過ぎに、ちゃんと焼肉を食わせてくれるここはえらいと思う。
ふつうはランチが終われば、5時か6時から営業を再開するものなのに。

さて、いよいよ最後ということもあり、二階のゆったりとした座敷で、いろんな話をしながらうまい焼肉を食す。

豚キムチ&ナムル&コチジャン写真はビールとセットで頼んだ豚キムチやナムルである。
普通のバラもハラミも何でこんなにうまいんだろう?と思いながら、さらに腹を膨らませる。
原も「今日僕は3kg体重増やすつもりで来ました」との言葉に恥じない食いっぷりであったが、さすがに3軒目ともなればオヤジ達の胃袋は悲鳴を上げる。

いろんな話に花が咲くが、ビールの酔いもあって、あんまり記憶にない。

そうして、2回目の鶴橋韓国ツアーは幕を閉じるのであった。
環状線に乗ると一気に日本の日常が戻ってきた。ゆらゆらと久しぶりの電車に揺られながら帰宅の途につく。
日本だけれど日本ではない、その街は、その食材でパワフルなエネルギーを十分に与えてくれるだけでなく、身近な海外旅行も楽しませてくれるのである。

帰宅(帰国?)後、この手の情報収集に余念のない原氏からメール(指令)が届いた。

何でも鶴橋の隣の今里は更にディープな世界が待っているらしい。
ふむふむ。これは行くしかない・・・。


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